第29回 3D教育研究会

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ご挨拶

日頃より、株式会社 KA 教育の教育活動にご協力を頂き誠にありがとうございます。この度『第 29 回 3D 教育研究会』を開催することが出来ました。『情報活用能力』とはどのような資質・能力なのか 改訂『学習指導要領』における情報の活用 と題し、文部科学省 大臣官房審議官(初等中等教育局担当)安彦 広斉先生による講演が行われました。開催時のレポートを作成致しましたので是非とも周囲の 先生方へご回覧頂ければ幸いです。

 21 世紀を担う生徒達にとって、『3D 教育プログラム』が、少しでもお役に立てればと 願う次第でございます。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。

2024年 3 月吉日
株式会社KA教育
代表取締役 菊地 淳

第1部「講演会」

会長挨拶

3D教育研究会 会長 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 副校長)

 皆様こんにちは。本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。入試も終わり、少し落ち着いたかと思いますが、これから新年度の準備が始まる忙しい時期に、このように足を運んでいただき感謝申し上げます。今回の内容が皆様にとって有意義なものであると信じております。

今回の講演をお願いした安彦広斉先生は、こちらの資料にもございますが、大臣官房審議官として活躍されており、非常にお忙しい立場にいらっしゃいます。それにもかかわらず、全国の小・中学校を積極的に訪問され、現場の声に耳を傾けてくださる、とてもフットワークの軽い方です。通常、役職の高い方はどうしても上から目線になりがちですが、安彦先生は対等な立場で意見を交換してくださる、非常に誠実な方です。

本校でもグローバルウィークという行事において、生徒たちの前で講演をしていただきました。その際、生徒たちの質問にも真摯に対応していただき、大変好感を持てる先生です。皆様も何かご質問があれば、ぜひお尋ねください。

先生は、GIGAスクール構想(Global and Innovation Gateway for All)の立案者でもあります。この構想により、全国の小・中学校に迅速にPCが導入されました。2022年のPISA調査で、日本の読解力が大きく向上したことが報告されていますが、その理由についてはまだ十分な検証が進んでいないとのことです。ただ、今回の読解力向上はデジタル読解力であり、GIGAスクール構想によるPCの導入がその要因の一つではないかと考えられています。これをさらに探求することが、私たちの役割でもあると感じています。

安彦先生は現場に近く、タイムリーな教育行政を推進しておられる方です。皆様のご意見が教育行政に反映される可能性もありますので、ぜひこの機会を活用していただき、文部科学省にお伝えできるような場にしていただければと思います。それでは、安彦先生、どうぞよろしくお願いいたします。

講演

『情報活用能力』とはどのような資質・能力なのか

 改訂『学習指導要領』における情報の活用

文部科学省 大臣官房審議官(初等中等教育局担当) 安彦 広斉 先生 

皆さんこんにちは。ご紹介いただきました文部科学省の安彦広斉と申します。本日は、さまざまな資料を用意させていただきました。スライドにも追加資料がありますので、ぜひご覧ください。

まずは自己紹介からですが、先ほど「変わった視点から」と紹介されました通り、私は山形県の鮭川村という非常に奥地で生まれ育ちました。同級生は5人しかおらず、その中で2つの学年を同時に教える複式学級でした。このような環境で育ったため、あまり社会性が身につかないまま大人になり、人前で話すのは得意ではありません。

また、大臣官房審議官を務めていますが、私の周りには有名大学を卒業したキャリア組が多く、高卒で公務員になった私は異色の存在です。そのため、学校現場を下から見守るような立場で仕事をしてきました。結果として、現場に寄り添わざるを得ないような視点が役に立っているのかもしれません。

私のキャリアには、情報関係の仕事と教員養成に関する仕事が中心にあります。資料の赤い文字はICTに関連する仕事、青い文字は教員養成に関する仕事を示しています。これらの経験を活かしながら、現場を支える仕事を続けてきました。

ここ最近、GIGAスクール構想に至るまで、さまざまな情報関連の仕事に携わってきました。システムエンジニアのような業務をこなしたり、財務省に対して細かく情報を説明するなどの経験を積んできました。そして最終的に、これらの経験がGIGAスクール構想へと繋がりました。これらの経験を踏まえ、皆さんと一緒に情報活用能力とは何かを考えていければと思っています。よろしくお願いいたします。 

GIGAスクールなど教育のデジタル化の背景

まず、GIGAスクール構想がスタートしましたが、その背景には学習指導要領の改定も含まれています。これを考える上で重要な社会の変化について少し触れたいと思います。まず「ソサイエティ5.0」ですが、この言葉を作った方に話を聞いてみても、具体的な説明があまり明確でないことがあります。内閣府が作成した資料はありますが、私がよく使うのは経団連の「Society 5.0」という説明です。これは非常に分かりやすく、デジタルイノベーションと多様な人々 の創造力を掛け合わせることで、課題を解決し、価値を創造する社会を目指すというものです。能動的に社会を作り上げていくという意味合いが含まれています。

次に、人口に関するデータをご覧いただきたいのですが、昨年11月に世界の人口が80億人を超え、2080年には104億人に達すると予測されています。一方、日本の人口はすでにピークを過ぎており、2023年から2024年にかけて急速に減少し始めています。この「ジェットコースター」が日本の悲鳴となってしまわないように、教育を通じて何をすべきかが重要です。2056年には日本の人口が1億人を割り、高齢化率が38%近くになると予測されています。このような人口動態の変化が、教育を考える上で非常に重要な要素となっています。

さらに、生産年齢人口も減少しており、特に小さな町や村では地域経済が縮小し、消滅の危機に直面しています。経済産業省の資料によると、変革を行わなければ日本経済は衰退していくと言われており、この転換期にどのように対応するかが大きな課題です。日本は今、未来を選択する時期にあり、教育も同様に大きな転換期を迎えています。

また、データ量は2年ごとに倍増すると言われており、今後もこの傾向は続くでしょう。AIのディープラーニング技術が非連続的に発展する中で、日本の強みであるものづくりを活かし、職人技をデータ化することで巻き返しを図ることが可能だと考えています。

AIについて言えば、カンブリア期に生物が急激に進化した背景には「目の誕生」があると言われています。同様に、ディープラーニングはAIの核心となる技術であり、これが今後さらなる技術革新を引き起こすでしょう。このような変化に対して、地方を変革するためには教育が非常に重要な役割を果たすと感じています。 

日本の1人当たり労働生産性が低いため、経済成長がなかなか進まないと言われていますが、これから情報技術をどのように活用していくかが非常に重要なポイントになると考えています。また、世界競争力ランキングにおいても、かつては技術力で日本がトップでしたが、2022年には34位にまで下がってしまいました。このように、日本の競争力は相対的に低下しています。

一方で、テクノロジーはますます進化しており、AIが人間を超えるとされる「シンギュラリティ」が2045年頃に訪れると言われています。このシンギュラリティについては、さまざまな見方がありますが、私はAIが人間を置き去りにするのではなく、人間とAIが協力して、人間だけでは達成できなかった領域に到達することを目指すべきだと考えています。例えば、将棋界の藤井聡太さんのように、AIと共に成長し、これまで人間が到達できなかった強さに到達している姿は、シンギュラリティの一つのイメージに近いのではないかと思います。

さらに、ChatGPTをはじめとする生成AIの進展により、シンギュラリティの到来は予想以上に早まる可能性があります。すでにその兆しが見え始めており、これを使いこなすのも人間、逆に使われてしまうのも人間です。この点において、非常に注目すべき時代が到来していると感じています。これからもテクノロジーの進化は続いていくでしょう。 

平成の最初と終わりを比べた時価総額ランキングを見ても、日本企業でトップ50に入っているのはトヨタだけであり、最近ではそのトヨタもランクから外れた時期がありました。現在、トップの企業はIT企業が多く、そのほとんどがITを駆使して成長している企業です。

ここで話題は少し飛びますが、日本の食料自給率はカロリーベースで約4割とされていますが、実際には自給できていない状態です。もし輸入が止まってしまったら、大変な事態になるでしょう。このため、食料自給率だけでなく、食料自給力も重要です。例えば、芋くらいは食べられるかもしれませんが、それしか食べられない生活になる可能性も懸念されます。こうした食料安全保障の観点でも、テクノロジーの活用が重要であり、スマート農業が注目されています。これが日本の将来を左右する鍵となるかもしれません。これは日本だけの問題ではなく、世界的な課題でもあり、その解決に日本が中心的な役割を果たすことが期待されます。

こうした背景から、農林水産省や経済産業省が、農業や商業、工業に関する専門高校へのアプローチを強化しています。教育が日本だけでなく世界を左右する重要な要素になる可能性が高いと考えられます。

日本の教育の強み

日本の教育の強みとして、2018年のPISA調査では日本が世界トップクラスに位置しており、2022年の調査でも OECD加盟国の中で非常に高い成績を収めています。特に読解力が大きく向上しており、これは非常に喜ばしいことです。また、TIMSSの数学・理科の調査でも、日本は上位に位置していますが、小学校の理科ではロシアに追い抜かれました。ロシアは長年、理数教育に力を入れており、その成果が実を結んだと言えます。教育はすぐに結果が出るものではありませんが、投資を続ければ必ず成果が現れる分野です。

一方、日本の小学校の理科教育に関しては、子供たちが「楽しい」と感じている点が強みです。しかし、中学校になるとその楽しさが減少しているという問題があります。これには入試や教え方、教科書など、さまざまな要因が考えられますが、小学校の段階で子供たちが理科を楽しんでいることは非常に大きな強みです。英語教育でも同様に、小学校では楽しいと感じる子供が多い一方、中学校になるとその楽しさが減ってしまう傾向があります。これらの問題については、今後しっかりと考えていかなければならないでしょう。

さらに、日本の子供たちは、他者と協働して問題を解決する能力も非常に高く、OECD加盟国を含めてもシンガポールに次いで高い評価を受けています。これは日本の教育の大きな強みだと考えています。

こちらは、アジア各国がお互いをどう見ているかの調査結果です。日本に対しては、アジアの国々の8割以上の人々が「好ましい国」と思ってくれているという結果が出ています。近隣諸国においては、政治的な影響もあり評価が低い部分もありますが、実際に子供たち同士の交流を間近で見ると、数字以上にお互い楽しそうに会話を交わしている姿が見られ、あまり過度に心配する必要はないのではないかと思います。いずれにしても、アジアからこれだけ好かれているというのは、日本の強みです。

日本の教育で気がかりな点

しかし、日本の教育には課題もあります。例えば、高校生の自己肯定感に関する国際比較調査では「自分はダメな人間だと思うことがある」と答えた日本の高校生が72.5%に達しています。これは非常に高い割合です。私自身  も時折、日本酒を飲み過ぎた翌朝に「自分はダメな人間だ」と思うことがありますが、当然ながら高校生は飲酒していないはずなので、別の要因があるはずです。また、「私は人並みの能力がある」と感じている高校生の割合は55%です。これだけ国際的な学力調査で好成績を収めているにもかかわらず、自分の能力に自信が持てない高校生が多いというのは、教育の課題だと言えるでしょう。このデータは中央教育審議会でも紹介され、改善が必要だという声が上がっています。

さらに、日本財団の調査によると、「自分は大人だと思う」割合や「自分で国や社会を変えられる」と思う割合が他国に比べて低いという結果も出ています。また、内閣府の調査では「自分自身に満足している」と答えた日本人が10%程度にとどまり、自己評価が厳しいことが示されています。

別のPISA調査では、デジタル機器の利用時間が短いという結果が出ており、特にコンピュータを使って宿題をする割合が低いことが分かりました。日本では、ゲームやチャットは行うものの、勉強や宿題にコンピュータを活用しない傾向が強いのです。これは、日本の教育における弱点となりかねません。

このような状況を踏まえると、単にデジタル機器の利用を禁止するだけでは問題解決になりません。むしろ、デジタル機器をいかに学びに転換し、主体的に活用できるかが求められています。禁止するだけでは、別のリテラシーが育たなくなる可能性もあり、慎重に考える必要があります。また、協働作業においても、日本の生徒が他の生徒と一緒にコンピュータを使って取り組む機会が少ないことも課題として浮き彫りになっています。 

このあたりのデータについては、2022年の結果がなぜ高くなったのか、そのヒントが2009年のデジタル読解力調査に見られるため、ご紹介します。この調査では、従来の読解力に加え、ICTリテラシーが求められるデジタル読解力が問われました。2015年から調査がコンピュータベースで実施されるようになり、その影響を確認するために試行されたものです。その結果、いくつかの関連データが見られました。例えば、日本は紙のテストでもデジタルのテストでもほぼ同じスコアでしたが、韓国はデジタルテストでさらにスコアを伸ばしました。ニュージーランドは日本よりやや上のスコアでしたが、逆に差を広げられ、オーストラリアに至っては日本より下だったものが逆転され、差が広がる結果となりました。

これらの結果の要因として、授業でコンピュータを使用しているかどうかが影響していると考えられます。コンピュータを積極的に使っている国では、スコアが伸びる傾向があります。ただし、授業で使っているだけでは、読解力に大きな影響を与えない可能性もあります。むしろ、自宅でコンピュータを使いこなしているかどうかがスコアの違いに影響していることが質問紙調査から分かりました。自宅で日常的にメールや調査などにコンピュータを使用している生徒は、リテラシーが高く、スコアに大きな差が出ているのです。

この結果から、デジタル読解力にはICTの活用が不可欠であり、それがスコアの差を生む一因であることが分かります。また、最近実施された情報活用能力調査でも、同様の傾向が見られました。平成27年ごろの調査では、小学生が1分間にキーボードで6文字しか打てないという結果が出ており、中学生や高校生でも大きく改善していないことが明らかになりました。しかし、GIGAスクール構想により、端末が行き渡った世代が2022年のPISA調査に参加しており、そのスキルがスコアを支えたことは間違いないでしょう。詳細な分析はまだ行われていませんが、これがスコア向上の一因であると考えられます。

ただし、このスキルが追いつかれると、日本の子供たちは他国に追い抜かれる可能性があります。2022年の課題として、日本の子供たちはアウトプットが不足していることが挙げられます。繰り返しアウトプットを行い、それを改善しながら次のステップに進む能力が不足しているため、今後この点を改善する必要があります。今回のスコア上昇は本質的な改善によるものではなく、慎重に評価するべきです。しかし、一方でコロナ禍の困難な時期にもかかわらずこれだけのスコアを出せたことは、先生方の努力の成果でもあります。この成果をさらに実のあるものにするために、文部科学省としてもデータ分析を含めて後押ししていく必要があると考えています。

また、これまでの調査でも明らかになったことですが、現在の子供たちは、画面に表示された情報を過度に信頼する傾向があります。たとえば、画面上で矛盾する情報があったとしても、両方を正しいと受け取ってしまうケースがあります。特にインターネット上の情報には信頼性の低いものが多いにもかかわらず、それをニュースのように信じてしまう傾向が強いです。この点も今後の課題として取り組んでいかなければなりません。

2015年の課題がありましたが、2018年の調査でも同様の課題が浮き彫りになりました。これらの課題を克服する上で、GIGA端末が導入され、子供たちがそれを使いこなせるようになったことが大きな要因の一つだと思います。強みと弱みを合わせてご紹介しましたが、こうした課題を抱える中で、なぜGIGAスクール構想が登場したのかについてお話しします。

学習指導要領とGIGAスクール構想の関係について

GIGAスクール構想は、産業構造の変化やAIの進化による危機感を背景に生まれました。中央教育審議会でも、将来的に人間の仕事がAIに奪われる可能性が議論されています。例えば、タブレットを発明したアラン・ケイ氏がこのような未来予測に言及しています。そうした議論が進む中で、教育も変化が求められていたのです。

一方で、AIやロボットに代替されにくい職業として、教師が挙げられています。ただし、このことは必ずしも安定した職業であるということだけを意味するわけではありません。むしろ、テクノロジーに代替されにくい分、働き方改革が難しく、長時間労働が続く可能性もあるということです。特に、高校の先生が代替されにくい職業としてリストに入っていないことが議論の対象になっていますが、これにはさまざまな理由が考えられます。実際には、高校の先生も101位から103位あたりに含まれていると推測されます。

このように、GIGAスクール構想は教育の進化を促す一方で、働き方や職業の在り方にも新たな課題を提示しています。代替可能性が低いことは一見喜ばしいことのように思えますが、長時間労働の問題が続く可能性もあるため、手放しで喜ぶべき状況ではないのかもしれません。

一方で、世界の教育改革は「コンピテンシー」という概念を基に進められてきました。これは平成24年にまとめられたデータを基に議論されたもので、基礎的リテラシーの位置づけが大きく変わってきたことが分かります。特に「キーコンピテンシー」の中で、デジタルコンテンツや情報テクノロジー、ICTリテラシー、情報リテラシーが強調されています。情報リテラシーは、単なるスキルの習得にとどまらず、情報を正しく捉え、活用する能力を重視するものです。このように、情報をどう扱い、活用するかが非常に重要視され、計画が進められてきました。

 「コンピテンシー」という概念はやや分かりにくいものですが、国立教育政策研究所がそれを分かりやすく説明しようとした図があります。この図では、成果を出す人がどのような行動をとり、その行動を支える知識や技能、態度が何かを分析し、それらを「コンピタンス」として表現しています。具体的には、言葉や道具を行動や成果にどう活用するかという力を指します。こうした力が成果を生むため、学習指導要領にも大きな影響を与える言葉となっています。

この中で「情報活用能力」という言葉が今回の学習指導要領に初めて明記されました。総則において、情報活用能力は問題発見・解決能力と同様に学習の基盤となる資質・能力であると位置づけられました。この言葉自体は昭和61年4月の臨時教育審議会、第2次答申で初めて登場しましたが、当時は自分とは関係ない言葉だと感じ、特に意識していませんでした。しかし、その後、令和2年から小学校でスタートした新しい学習指導要領に初めて盛り込まれ、ようやくその重要性が広く理解されるようになりました。

それまでは、私もICTの分野に長く携わってきましたが、情報活用能力は教育の中で軽視されてきました。しかし、ようやくその価値が認められ、教育においても重要視されるようになったのです。これほど教育の変化には時間がかかるものだという一例と言えるでしょう。情報活用能力は、これからの時代を生きる子供たちにとって非常に重要であり、今回の学習指導要領でようやく規定されたことは、教育における大きな前進だと考えています。

当然、これを支えるためのICT環境の整備も重要であり、それが初めて学習指導要領に規定されたことになります。例えば、小学校ではプログラミング教育が初めて盛り込まれました。中学校でも、従来からプログラミング教育や情報セキュリティに関する内容はありましたが、それがさらに充実されました。また、高校では「情報I」という新しい必履修科目が導入され、これまでプログラミングを学ぶ高校生は2割程度でしたが、今後は全員が学ぶことになります。これを支えるための道具としてGIGAスクール構想が位置づけられています。

当初は、3人に1台の端末を使い回す計画でしたが、クラウドベースでないとデータの共有がうまくいかないという問題があり、ネットワークの整備が求められました。しかし、ネットワークの脆弱性やクラウドのセキュリティ管理の課題から、1人1台の端末を導入する方が現実的だという判断がなされました。台湾の経済産業省のバックアップもあり、1人1台の端末が実現したわけです。ただし、学校内のネットワークが改善された一方で、地方や都市周辺部のネットワークはまだ脆弱で、複数の生徒が同時に使用するとネットが遅くなるといった問題が残っています。

また、プログラミング教育の導入について、小学校では「なぜプログラム教育を導入するのか」という説明手引きが作られました。例えば、子供たちに「家の中でコンピュータが内蔵されているものは何か」と尋ねても、ほとんどが答えられない状況です。パソコンやスマートフォンが挙げられることはありますが、掃除ロボットなどの他のデバイスには気づいていません。これでは、世の中がどのようにコンピュータで動いているのか理解しないまま生活していることになります。

 そこで、小学校では、信号機を例にとり、プログラミングの仕組みを学びます。簡単なプログラミングで信号の制御を行い、青、黄、赤の順に光らせることで、車が安全に通行できる仕組みを理解します。ここで重要なのは、プログラミングそのものができることではなく、その仕組みを理解し、プログラミングをどのように活用できるかを考える力を養うことです。

例えば、ある小学生がプログラミングを学んだ後、交通信号の矢印表示の順番に問題を感じ、「事故を防ぐためには、信号の順番を変えるべきだ」と提案したというエピソードがあります。これは、プログラミングを学ぶことで問題解決の視点を持てた結果です。このように、コンピュータやプログラミングが単なるブラックボックスではなく、問題解決や生活を便利にするための道具であることを理解することが重要です。

このプログラミング教育は、理科や算数、総合的な学習の時間など、さまざまな教科に組み込まれており、まだ時間数が決まっていないため濃淡がありますが、スタートした意義は大きいです。

一方で、「総合的な探究の時間」における探究プロセスにも情報活用能力が大きく関わっています。様々な情報を正しく捉え、それを使って課題を設定し、情報を収集・整理・分析し、最終的にまとめて表現する。このサイクルを繰り返し太く速くしていくことが探究のプロセスにおいて重要です。このプロセスで情報活用能力が活かされることで、探究の成果が高まると言えるでしょう。情報活用能力が向上することは、探究のアウトプットが向上することと同義であり、この能力が国の教育改革の中心に据えられていることが分かります。日本も遅ればせながら、この改革をスタートさせたという背景があります。

教育のデジタル化が目指す未来の教育と学び

教育のデジタル化が目指す未来の教育や学びとは何か。GIGAスクール構想の実現に向けて、多額の予算が投じられました。全国の小・中学校に端末を配布するには相応の金額が必要となりますが、1台あたり約4万5000円という、特別高価ではないパソコンを整備するための費用が計上されました。令和5年度補正予算では、次の端末更新も課題となり、まだ十分に使いこなしていない段階で更新の話が出たため、財務省から厳しい指摘を受けました。しかし、安定した更新ができなければ、再び端末が使われなくなってしまうという懸念もあり、更新を確保するための基金が設立されました。これにより、国公私立を問わず、学校での整備が進められるようになりました。

このように、小中学校ではデジタル化が進んでいますが、高校ではまだその進展が遅れているという課題があります。特に県立高校では、1人1台の端末環境が整っていないため、中学から進学した生徒が突然不便な環境に戻ることになります。私立の中高一貫校では、1人1台が当たり前の環境が整っていますが、県立高校では補助金がなく、自己負担が求められることもあり、デジタル化が遅れています。このため、県立高校にも支援を行い、デジタル化を推進する必要があります。

このような背景から、「DXハイスクール」というプロジェクトが立ち上げられました。これは、ハイスペックPCや3Dプリンターを導入し、プレゼン資料や動画制作など、様々なアウトプット活動を支援するためのものです。このプロジェクトには、100億円の予算が投じられ、まずは1000校程度を対象にスタートさせることになりました。これにより、高校でも情報活用能力を発揮できる環境を整備し、デジタル化を推進することを目指しています。 

内容はかなり難しい部分も含まれていますが、大学や外部のICT企業、情報サービス産業協会などの協力を得ることも検討されると良いと思います。企業から最先端の専門家を派遣してもらうといった取り組みも可能ですので、ぜひこうした団体と連携しながら進めていくことを考えてみてください。今後もこのような取り組みを続けていきたいと考えています。

ここで、教育のモデルについて少しお話しします。1990年にブランソン氏が提案した「学校の情報技術モデル」がありますが、これは教師が一方的に生徒に教える旧来のモデルから、教師と生徒が双方向に学び、生徒同士でも学び合う現在のモデルへと変わってきたことを示しています。このモデルは、教師が学びに必ず介在する形を前提としていましたが、今後はさらに変わる可能性があります。かつてはデータベースやネットワークの利用が難しく、実現は困難とされていましたが、現在では1人1台の端末が整備され、生徒自身が自分のペースで学ぶことが可能になりました。

このように、教師の役割が変わりつつあります。教師は知識を伝授する役割から、生徒がアウトプットを作成する際に適切なフィードバックを提供し、学びを深めるためのサポートに専念できるようになるでしょう。こうした変化により、教師も生徒もより充実した学びの時間を共有できるようになると期待されています。今後は、このモデルをどう実現するかが大きな課題となります。

「1人1台時代の創造的な学び」では、ICTコーディネーターの田中康平氏が提唱する新しい学習活動のモデルがあります。これまでの授業は理解や記憶に重点を置いていましたが、今後は応用やアウトプットに重点を置き、問題解決のための提案やプログラミングなど、実際に形にする活動が重要視されます。このような学びが実現できれば、生徒たちは新しい視点で自分の学びを深めることができ、教師も授業改善の努力が報われると感じられるでしょう。

また、具体的な事例として、立命館宇治高校で実施された「WWL(ワールドワイドラーニング)」事業があります。この事業では、台湾のオードリー・タン氏が参加し、生徒たちとともに課題解決に取り組むという活動が行われました。コロナ禍においても、非常に主体的で深い学びが実現された事例として印象的です。

さらに、関西学院高等部では「AI活用入門講座」が開講され、高校段階から大学レベルの学びを先取りする試みが行われています。この講座では、大学進学後も役立つスキルが身につき、大学の単位としても認められる内容です。こうした取り組みは、高校と大学の連携を強化し、大学を早期卒業する道を開くものとして非常に期待されています。

このように、新しい高大接続のモデルとして、先取り履修を導入し、大学院への早期進学を促進する取り組みが注目されています。もし、こうした取り組みに 関心があれば、大学との連携を進めることも検討してみてください。

これまでの内容は少し難しい部分もありましたが、ぜひ大学や外部のICT企業、情報サービス産業協会などと連携し、高校生の学びをさらに広げる取り組みを進めていただければと思います。例えば、旧制高校のように、大学進学がほぼ決まっている生徒たちが、既存の科目に飽き足らず、高校段階で大学レベルの内容を学び、将来の学びに繋げるといった形です。また、専門高校では、産業界と連携して専門的な内容を深く学び、単なる即戦力としてだけでなく、産業全体の構造を変えるような価値を創造できる生徒を育てることが期待されています。

これらの取り組みは、特定の拠点校でなくても実践可能です。特に私立学校の自由度を活かし、柔軟な教育プログラムを導入することができます。ぜひ参考にしていただき、幅広い視点で検討していただければと思います。

また、「情報活用能力」は、現行の学習指導要領の中で非常に重要な位置づけを持っています。この能力は、自分の良さや可能性を認識し、他者を尊重しながら、多様な人々と協働し、社会的変化を乗り越える力を育むために不可欠です。特に、デジタル時代においては、人権意識や情報モラルを持ちながら、適切に情報を活用することが求められます。 

さらに、オンラインで世界中の人々と協働できる時代となり、これを活用して社会的課題を解決し、持続可能な社会の構築に貢献することが期待されています。こうした背景から、情報活用能力が教育の中で重要な柱となっており、学校と社会が連携して教育を進めることが求められています。

「社会に開かれた教育課程」を実現するためにも、学校だけで完結しようとせず、社会や企業、様々な団体と連携しながら、子供たちの学びを支えていただければと願っています。

最後に、私の説明が不十分な点もあったかもしれませんが、これで情報提供を終わらせていただきます。何かご質問があればお答えいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。


質疑応答

進行 3D教育研究会 副会長 樋口 元先生(前京華商業高等学校 校長)

Q 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 ) 

日本におけるアドバンスト・プレイスメント(AP)や早期卒業の取り組みについて、お伺いします。アメリカではAPプログラムが全国共通で広く導入されており、どの大学でも単位として認められる仕組みが整っています。これにより、優秀な高校生が大学レベルの科目を履修し、高校卒業時に既に多くの大学単位を取得できるようになり、早期卒業や大学院進学が可能です。

一方、日本ではこのような共通のAP制度は整っておらず、各大学ごとに連携が行われているのが現状です。関西学院大学や杏林大学が実施しているように、特定の大学と連携した早期履修プログラムはあるものの、全体としての共通化が進んでいないため、広く普及するまでには至っていません。

また、国家試験に関しても年齢制限が存在し、早期卒業が難しい分野があることも課題です。例えば、薬学部を5年で卒業させるためには、国家試験を5年目に受けられるようにしなければならず、それが現行の制度では難しい。医学部でも同様に年齢制限が問題となっています。

この点について、文部科学省では何か対策や考えがあるのでしょうか?

A 安彦 広斉先生

おっしゃる通り、大学が集まって共同で科目を開設し、それを各大学の単位として認定するという形は、アメリカのAPプログラムに似た形で日本でも可能性があります。制度上は、大学間での連携や役割分担をうまく調整すれば、実現可能な仕組みだと思います。課題は、どの大学がどのように参加し、その大学ごとの思惑やニーズをどうやって調整していくかという点にあります。

特に、参加大学がどのように入試や入学者選抜にこのプログラムを絡めるのか、また、科目を受講する生徒の進捗をどう評価し、適切に選抜につなげるかという点が重要です。この点をクリアするために、例えば教員養成学部や理学部が積極的に参加し、早い段階から優秀な学生を確保しようとする動きが出れば、さらに推進力が増すでしょう。

そのためには、大学のコンソーシアムを形成し、各学部や大学が参加しやすい環境を整えることが重要です。また、高校側もこのようなプログラムに参加できる体制を作り、大学と高校が一体となって進めていくことで、学びの進化を図ることができるでしょう。こうした取り組みが実現すれば、国家試験や年齢制限の問題も、段階的に解決される可能性があります。

コンソーシアムの形成や高校との連携は、まさに日本の教育システムをより柔軟かつ先進的なものにする鍵となる取り組みだと思います。今後の進展が楽しみですし、これが実際に成功すれば、日本の教育に新たな可能性が広がるでしょう。

Q 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 )

文部科学省が率先してアドバンスト・プレイスメントのようなプログラムを進めるために、大学のコンソーシアムを支援するような具体的な政策は無いでしょうか?

A 安彦 広斉先生

その取り組みは非常に意義深いものだと思います。WWL事業の中で大学のコンソーシアムを活用し、先取り履修プログラムを広島だけでなく、他のエリアにも拡大しようとする考えは、多くの生徒に新たな学びの機会を提供する可能性があります。課題を丁寧に洗い出し、解決策を見つけながら着実に進めていく姿勢は、このプロジェクトの成功にとって非常に重要です。

さらに、WWL事業の中でこうした取り組みが広がれば、文部科学省からのさらなる支援や注目を集めるきっかけにもなるかもしれません。コンソーシアムが広がり、実績が積み重なれば、全国的なモデルとしての展開が期待でき、より多くの大学や高校が参加することで、日本の教育システムに大きな変革をもたらす可能性があります。

今後も、このプロジェクトが成功し、他のエリアにも広がっていくことを心から応援しています。また、必要に応じてさらに後押しできる方法が見つかれば、それがWWL事業の中で進められると良いですね。

樋口 元先生(前京華商業高等学校)

おっしゃる通り、高等学校と大学が連携して放課後に特別講義を行い、その履修を大学の単位として認める取り組みは非常に有意義です。しかし、受験勉強が優先されがちな現状では、なかなか生徒が積極的に参加しにくいという課題もあります。特に、高校生にとっては目の前の受験が最優先となるため、こうした先取り学習のメリットが十分に伝わっていないのかもしれません。

この点で、文部科学省や国の支援を受けて大学同士の横の繋がりを強化し、こうした取り組みを全国的に広げることができれば、より多くの高校生が参加する機会が増えるかもしれません。広がりが出ることで、参加のメリットが明確になり、受験勉強と並行して学びたいという生徒が増えてくることも期待できます。

今後、このような取り組みがさらに発展し、受験勉強との両立が図れるようなサポートやシステムが整えば、より多くの生徒が先取り学習に参加し、大学での学びを充実させることができるでしょう。

安彦 広斉先生

確かに、高校教育において1学期制が主流である現状は、大学との連携を進める上での大きな課題となっていると思います。大学が4学期制を採用することで学びの柔軟性を高めている一方で、高校が1学期制に留まっていると、どうしても学びの過程が硬直的になり、大学との連携を進める上で障壁となります。

ご指摘の通り、2学期制(セメスター制)や夏学期の導入が進めば、高校生がより柔軟に大学の授業を履修しやすくなるでしょう。また、選択科目が増えれば、生徒が自分の興味や進路に応じた学びを深めやすくなり、先取り履修や大学との連携も円滑に進むことが期待されます。

このようなシステムの導入は、受験対策だけに縛られない新しい学びのスタイルを生み出し、高校教育全体の質向上にも繋がる可能性があります。今後、こうした柔軟なカリキュラムが広がり、大学との連携が一層進展することを期待しています。

Q  石井 公一先生(立正大学付属立正中学校・高等学校)

教育の現場で、生徒にどのように情報を提供するか、そしてそれを支える教員自身の学びが非常に重要だという視点は、まさに現代の教育が直面する課題の一つです。特に、大学が求める人材像や、社会や企業が求める人材像との結びつきが不透明であることが、多くの教育者や生徒にとって大きな課題になっています。

大学入試や偏差値といった従来の価値基準が依然として強調される中で、教育全体がどのように変革し、大学や社会のニーズに対応していくのかが問われていますが、それを理解し教育現場でどのように伝え、実践していくかは非常に複雑な問題です。

このような課題に対処するためには、教育現場と大学、さらには企業との間で、より一貫性のあるコミュニケーションと目標設定が必要だと感じます。教育の各段階で目指すべき方向性を共有し、それに基づいた教育方針やカリキュラムを構築していくことが、より効果的な教育システムの実現につながると思いますが、その点についてはいかがお考えでしょうか。

A 安彦 広斉先生

実は、そこが大きな課題だと感じています。入試がある以上、入試に対応することは子どもたちのためにも必要ですが、それだけに注力してしまうと、入試のための学び方を望まない生徒まで巻き込んでしまうことになります。そのバランスをどう取るかが、非常に大きな悩みです。

そうした中で、最近アメリカのジョージア州で取り組まれている生成AIを活用した学習方法が興味深いです。生成AIを使って、生徒が自分に合った学び方を見つけられるようにしようとしており、そのAIが生徒一人ひとりに合わせた学習サポートを提供できるよう、教師が対話のデータを提供し、AIをトレーニングする仕組みを構築しています。これによって、例えば共通テストや国立大学の二次試験を突破したい生徒、または専門分野で特定の私立大学に進学したい生徒、それぞれに最適化された学びを提供することが可能になるのではないかと感じています。

ただ、最終的には教師がコーチングを通じて生徒一人ひとりの学びをサポートすることが重要です。これにより、授業は従来のような一斉形式ではなく、個別最適化された学びを支えるものへと変わっていくでしょう。

また、高校生と一口に言っても、その進路や目的は多様です。そうした多様なニーズに対応するためには、教科書だけに頼るのではなく、教科書以外のリソースを活用して学びを深めることがますます重要になると考えています。実際に、ICTを使いこなしている生徒たちの授業では、教科書をほとんど開かずに学んでいる姿が見られます。

ただ、それでも教科書は大切です。教科書は、学び直しや基礎を確認するための優れたリソースであり、学びの軸として重要な役割を果たします。

これからは、教師が生徒の目標や進路に合わせて、正しい方向に導きながら個別最適な学びを進めていくことが求められます。教科書やICT、共通の学習基盤を活用しながら、生徒一人ひとりの学びを支えていくことが、これからの教育において非常に重要だと感じています。

Q 宮島 徹雄先生(情報経営イノベーション専門職大学)

少しだけお伺いしたいのですが、大学の観点から見て、高校の先生方が情報系の科目を担当するのは非常に大変で、スキルアップがなかなか進まないという現状があります。文部科学省として、高校の先生方の情報系スキルの向上について、どのようにお考えか、お聞かせいただければと思います。特に、高大連携などについても、非常に多くの要望が寄せられていますので、その点も含めてご意見を伺えればと思います。

A 安彦 広斉先生

昔から、中学校の技術科で情報領域をもう少し充実させたいと考えていました。また、今進めているDXハイスクールでも、情報教育を強化しようとしています。近々「情報Ⅱ」のイメージビデオというものを作成し、これは「こう教えれば良いんだ」という具体例を示すもので、先生方が抵抗なく取り組めるような内容になっています。これを見て「これならやってみようかな」と思っていただけるような、良いものができたと自負しています。今後は、このビデオを活用しつつ先生方の学びをどう支えていくかをしっかりと考え、取り組みを進めていきたいと考えています。


参加者全員で記念撮影

第28回 3D教育研究会

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ダイジェスト版動画

ご挨拶

日頃より、株式会社 KA 教育の教育活動にご協力を頂き誠にありがとうございます。 この度『第 28 回 3D 教育研究会』を開催することが出来ました。 『現代社会で求められる人材、資質・能力の育成〜高等学校の「探究」と高大接続の可 能性〜』と題し、情報経営イノベーション専門職大学 イノベーションマネジメント局 局長 の宮島徹雄先生による講演が行われました。開催時のレポートを作成致しましたので是 非とも周囲の先生方へご回覧頂ければ幸いです。

21 世紀を担う生徒達にとって、『3D 教育プログラム』が、少しでもお役に立てればと 願う次第でございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

令和 3 年 12 月吉日
株式会社 KA 教育
代表取締役 菊地 淳

第 1 部「 講 演 会 」

会長挨拶

3D教育研究会 会長 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 副校長)

皆様、こんにちは。入試がやっと終わって一段落ついた時に来ていただいて、 本当にありがとうございます。 今日の講演は大事だと思っています。今まではどちらかと言うとコンテンツ ベースで何をやったかを大事にしていましたが、そうではなく、どこまでやっ たかが大事なのではないでしょうか。これからはコンピテンシーベース、資質 ベースで考えていかないと、世界のイノベーションが発達していく社会におい ては資質能力が問われる時代になってきたのではないでしょうか。そのために あるのが『探究』という学習なのです。今までのような評価ベースの授業では資 質能力がなかなか育ちません。『探究学習』を通して資質能力を育てていかなければいけません。資質能力の分野は幅が広いのですが、今までと違うのは知識ベースではなく、社会性、学び に向かう力、というようなものまでも学力として捉えようという、時代になってきました。学力の幅が広がっ てきました。 今回の講演の先生には企業家的、探究的な学びについてお話しいただけるのではないかと思います。本校で も『探究学習』を行っています。他の学校様も『探究学習』を重視しつつあるように思います。『探究』と一言で 言いますが、アカデミックな内容、SDGs的な内容など幅が広いのです。企業家的なものも出てきて、教師が指 導できない内容になってきます。そういう時に大学の先生の力をお借りしながらやっていく時代になったの かなと思います。

今回は情報経営イノベーション専門職大学 イノベーションマネジメント局 局長 宮島徹雄様にご講演い ただきます。こういう機会に助言をいただけるような関係づくりをしていただきたいなと思っております。高 大連携のつながりを持ち、高校だけでできない時には外の力を借りることができる、コミュニケーション能力 のある人が教師になる時代を作っていく、今日はその第一歩ではないかと思います。先生、よろしくお願いい たします。

講演

『現代社会で求められる人材、資質・能力の育成 〜高等学校の「探究」と高大接続の可能性〜』

情報経営イノベーション専門職大学 イノベーションマネジメント局 局長 宮島 徹雄先生

情報経営イノベーション専門職大学 イノベーショ ンマネジメント局 局長 宮島徹雄と申します。今日は よろしくお願いいたします。 お題は『現代社会で求められる人材、資質・能力の 育成〜高等学校の「探究」と高大接続の可能性〜また、 その成功のために必要なことは?』ということでお話 をさせていただきます。

宮島徹雄先生プロフィール
関西生まれ関西育ち。1967年大阪生まれ。5人家族。関西学院大学 経済学部(体育会ラグビー部) 1991 年卒。息子は同志社大学グローバルコミュニケーション学部 北京大学留学。娘は武庫川女子大学 (中学 より) 山東大学留学。
1991年株式会社リクルート入社 以降11年間教育機関広報部在籍
2002年住宅情報事業部異動
2006年辻調グループへ転職 3校の副校長兼務
2016年 東証プライム市場上場のITベンチャーの
(株)エアトリへ転職 ITオフショア開発事業部執行役員→現在アドバイザーへ
2017年 電子学園 専門職大学設立準備室長就任
2020年2月学園の事業会社であるi株式会社代表取締役就任
2020年4月iUの事務局長就任 学校法人電子学園 理事就任
2021年4月アーバンデザインセンターすみだ 副センター長就任
2022年11月iUZinvestment 代表パートナー就任
現在も上場、教育系ベンチャーの企業中心に顧問、アドバイザー等を複数務める。 ベンチャー投資も行っている。 自身のミッションは沢山の良い教育機関を創る。

今、ライフワークとライスワークがシンクロしていますので、メンタルコンディションが高い状況です。大 変なこともありますが、楽しくやっております。30 年の間に一般の会社に勤めながら、専門学校の教育をし て、ITベンチャーの役員をやらせていただいて、その後自ら大学を作り、来年 4 期目、完成年度を迎えます。

今、世界のどこで何が起きているのか?決して見落とせない世界紛争

世界はどうなっていますか?ということですが、非常に厳しい状況です。海外のことを理解しないと難しい 時代です。そんな中、日本はどうでしょう。平成元年と平成 30 年の世界時価総額ランキング。平成元年 30 社 中 21 社が日本の会社でしたが、平成 30 年には 0 社になりました。2021 年はどうか。ベスト 30 に入ってい る会社は 0 社です。本当に日本の国力は落ちています。

これは世界の購買力ランキングです。2014 年日本は 4位、30年も日本は4位。2050 年に7位になってし まいます。2050 年にフォーカスしていきたいと思い ます。インドネシア、ブラジル、メキシコに抜かれます。 2013 年人口は中国が 1 位、日本は 10 位ですが、2050 年になると日本は16位になります。2050年予想で は 1 億人ですが、コロナ前の数字なのでもしかしたら 2050 年 1 億人を切っているのではないかと思います。 日本の国力が下がっていくのが前提です。

Society 5.0

社会はどうなっていきますか?これはSociety 5.0 です。サイバー空間とオリジナル空間を高度に融合させ たシステムにより、経済社会の発展と社会的課題の解決 を両立する、人間中心の社会。ITが全てのことを解決し ていくということです。人口が減っていく中でどうして いくかが問題です。

ムーンショット目標

皆さん、ムーンショット目標をご存知ですか?これは 内閣府が立案したもので、ホームページで公開されてい ます。3領域でこういった具体的な目標が出ています。 この目標を達成するために政府の方針や予算がつきま すので、2050 年と考えていただくと先生方の生徒た ちが43 〜45くらいになります。働き盛りにこの目標 が実現されているということなので、この時に彼らにど ういう目標を持たせるかは教育上大事だと思います。

ChatGPT

私も今日のお題をChatGPTに入れてみました。私の考えとそんなに変わらないことをアップしてきます。 共通テストでも 7 割くらいとった、アメリカの医療系の試験も通ったとか。2023 年でこのくらいのテクノロ ジーですから、2050 年だと我々も想像がつかないと思います。インスタグラムが 100 万人に達するのが 75 日。YouTubeが 260 日。Facebookが 310 日。それに対してChatGPTが 100 万人に達するのにかかった日 数はわずか 5 日らしいです。こういう破壊的なテクノロジーは一瞬にして広がるというのをまざまざと見せ つけられました。先生方の生徒たちがこういう社会を生きていくためにどういう能力をつけたらいいのか、非 常に大事なのではないかと思います。ChatGPTは対話ができる、小説や脚本が書けるということです。宿題もChatGPTがそこそこいい作文を書くというようなことが起こると思います。こうなるとコピーライターの 仕事がなくなると思います。メールの返答なども、ChatGPTに書かせて人間がチェックして返すとメールの やり取りの手間も削減できます。これが自動になってくるとどうなるのでしょう。

多様性を持った理解したグリット出来るグローカルなイノベーション人材

2023 年にこういうことが起こっていて、2050 年に 活躍するのに必要な能力とは何なのだろうと考えまし た。多様性を持った、理解した、グリット出来る、グロー カルなイノベーション人材。これに尽きるのではないか と思っております。世の中グローバルになってきている わけですから当然多様性も理解しないといけません。ホ ームセンターでも海外連携をとっています。コンビニエ ンスストアでも海外の留学生の方々がいらっしゃらな かったら全く成り立ちません。いかに海外の方の価値観 を理解できるかということが大事だと思います。グローカル(グローバル+ローカル)なイノベーション人材、 この力を持っていると私は 2050 年でもやっていけると思います。私はベンチャーの役員もやっていました ので、いろいろ見てきました。大学に行って、1 社で勤め上げる時代ではありません。私たちが親から言われ ていた価値観が、コロナもあって急速に変わってきています。そんな時に今までの知識型、言われたことだけ を覚えている、言われたことだけをやれる子というのは給料も安くなり、ブルーワーカーになるしかないと思 います。その生き方が悪いとは思いません。人それぞれですが、できれば社会的に価値のある仕事をして欲し いと願います。従来型の考え方だと難しいと思います。

2050 年に活躍するためには多様性を持った、理解した、グリット出来るグローカルなイノベーション人材 が必要だと思います。グリットというのは、ガッツ持って自発的に最後までやる能力。これに尽きると思いま す。当たり前のことなのですが、なかなか最後までやり切る人物はいないと思います。能力の差はないと思い ます。ビジネスアイデアもそんなに斬新なものは出ないと思います。今、上場している企業さんでも斬新なア イデアを出しているところはないと思います。ベーシックなビジネスアイデアを他のものと掛け合わせてい ます。 後はイノベーション人材です。Google社の前副社長のジョナサン・ローゼンバーグ氏が求める人材を次 の 5 つのスキルを持つ人材と定義しています。

・分析思考能力
・コミュニケーション能力+SNS時代のデジタル
・新しい試みに対する意欲
・チームで仕事ができる能力
・情熱と指導力

SNS時代のデジタルコミュニケーション、インスタやTikTokをうまく使いこなせる能力があるなど、とて も大事だと思います。算数ができる暗記ができるなどの能力は書かれていません。求められる能力が今は全く 違うと思います。ここに書かれている能力を持っている子が 2030 年、2040 年、2050 年、活躍してしっかりお金をもらって社会貢献してくれるのではないかと思っています。

情報経営イノベーション専門職大学(iU)

こういう人材を作らなければならないので、私は大学を作りました。専門職大学は皆さんほとんどご存知な いと思いますので、ご説明させていただきたいと思います。1964 年、前回のオリンピックの時に短期大学が できていて、それ以来 55 年ぶりにできました新しい大 学の種類です。世界で通用する学位が取れます。普通の大学と同じ 4 年です。大きく違うところは、授業は原則40 名以下です。600 時間以上のインターンシップに行きます。ほぼ 4 ヶ月のインターンシップに行かなければ 卒業できないのです。業界・現場のプロの実務家教員が 4割以上在籍している。現場で活躍している人を入れま す。大学を作る上、さらにこの条件を加えているので、難しいのです。2022 年 4 月現在で 18 校開学していますが、申請は 50 校です。普通の大学なら 48 校くらいは申 請がOKです。教員を調達できずに開学を断念するとこ ろが多いのです。いい教育内容なのですが、作りにくくて、知名度がなく皆さんから認知されにくいので、なか なか生徒さんが集まっていない専門職大学が多いのです。全国 18 校中半数以上が定員割れしていると思いま す。なぜ専門職大学ができたのか?産業構造の変化や技術革命等に対応し、より質の高い職業教育の充実が求 められていますが、従来の大学は学術研究を基にした教育を基本とする仕組みとなっていることから、企業等 と連携して実践的な職業教育を行う新しいタイプの大学として、専門職大学制度ができました。従来の大学は 研究しなさいと言っているわけです。外部からお金を持ってくるけれど、専門職大学は職業教育をやれと言わ れているのですが、ご理解いただいて長い目で見ていただきたいです。 iUは「変化を楽しみ、自ら学び、革新を創造する」という教育理念のもと、学校法人電子学園が作った大学で す。日本電子専門学校は東京・西新宿で 3065 名の学生が学ぶ日本を代表する工業系専門学校。理事長は東京 の専門学校のトップと全国の専門学校の筆頭副会長をやっております。 開学3年目ですが、情報経営イノベーション学部情報経営イノベーション学科の単科の大学です。入学定員 が 200 名。専門職大学、単科で一番多い定員です。昨年の 4 月に 217 名入学。現在 639 名在籍しております。珍 しく定員をオーバーしている大学です。非常に面白い生徒がいます。息子の学校見学に行ったら面白いから入 ったという 48 歳の現役の看護師のお母さんがいます。お母さんはICTを医療分野に持ち込みたいそうです。 66 歳の役員をやっているお父さんも面白そうだからと入りました。学力の高い高校からも来られています。 偏差値にはこだわっていません。大学に入ってグリットできる生徒が 200 人集まってくれたらいいと思って います。いい大学に受かったのに行かずに来ている子もいます。8割近い教員が現場で研究していたメンバー や企業しているメンバー。面白い授業を展開しています。非常に実践的です。立地が墨田区です。墨田区は 23 区で唯一大学がなかった区です。墨田区初の大学として開校しました。生徒は日本全国から来ています。一番 多いのは 70%の 1 都 3 県です。留学生は来年は 30%くらい取りたいです。男子 84%女子 16%なので、女子も 増やしたいです。新設の学校なのできれいです。墨田区にキャンパスを開設された千葉大学と、墨田区と、3社包括提携しましていろんな取り組みをしています。アー バンデザインセンターすみだ(UDCすみだ)に3社と東 武鉄道、UR都市機構、東京商工会議所、東京東信用金庫、 墨田区公社などが参画して地域貢献しています。(選考 事例は千葉の柏市。)千葉大学は建築系の学部があるので墨田区の街づくりや都市計画のお手伝いを、我々 DX の大学なので中小企業のDXや小中学校のデジタル化の お手伝いをさせていただいております。小中学校では学 生が先生方に教えたり、小中学生にプログラムを教えた りしています。昨年3月、テレビスタジオを作りました。 吉本興業に貸し出しています。地域貢献の生放送をやっています。大学のキャンパス内にこういった施設を持 っているのはうちの大学だけです。

学びの内容はビジネスが 50%、ICTが 30%、グローバルが 20%です。グローバルは英語です。英語でプレ ゼンテーションができるコミュニケーションスキルを身につけます。ICTはプログラミングやシステム開発 の基本的な知識やスキル、セキュリティ、loT、AIなど幅広く学習します。ビジネスは 50%です。その半分が マーケティング、マネジメント、ファイナンスなどを学ます。その半分は 4 年間通して企業に挑戦します。残り の半分は企業と一緒にPBLを学びます。起業内で新規事業をするビジネスマネージャーや、企業内企業家がメ インになるのではないかと思っています。実際の学生の希望は 10%は大学院。20%は起業。70%は企画職希 望の会社員です。70%の人がまだ何をやりたいか見つかっていない、起業はしたいが会社に入ってから見つ けたいと言います。大体想定通りの子たちが育っているのではないかと思います。

1 つ目の特徴は、今、500 社くらいの企業と連携しています。インターンシップの派遣や教員の派遣やプロ ジェクトをやっています。理化学研究所とAIがみんなの校歌を作る。BSよしもと株式会社と新たな教育研究 拠点を開設。京丹後市デジタル戦略策定プロジェクト、これは学生が調べ物をやり、コンサルタントがまとめ て、学生がプレゼンをします。他には放送局のeスポーツの企画を運営協力したり、DXの人材育成サービスの 協同講座開設をやっています。

2 つ目の特徴は、客員 700 名にいろんな形でサポートしてもらっています。
3 つ目の特徴は、在学中に起業をします。授業でやった内容か、自分のやりたい内容をプレゼンしてもらい ます。学生はお金を持っていませんので、事業会社かファンドから出資を実際に行っています。6 社の出資実 績があります。大学の住所で起業しているのは 16 社で す。オフィスも大学内に構えていて、学校内で起業して います。今一番面白いのは、ナインバースと言う会社。今月は 6000 万資金調達しました。2 年生の学生ですが、 今、休学しています。忙しすぎて授業にでれないという ことです。来年は億単位の調達をするそうです。VRの アバターの着替えをやっています。投資家の方に非常に 気に入られて、上場したいと言われています。後、推しメーター。昨年の 11 月に 1 千数百万調達しました。同級生5人くらいで起業して、おじいちゃんの家の 2 階に全員住み込んで、史上最年少の上場を狙うと言っていま す。この会社に出資をしています。こういった出資している会社からのキックバックがありますので、それを 学生の奨学金にしたいと考えています。そして将来的に学費をゼロにできればいいなと思っています。徳島の 神山高専が 100 億円集めてその運用資金で学費をゼロにしている成功事例があります。親の経済力で大学に 行けない人が我が校でチャレンジしてもらって、私たちに恩返しするのではなく、恩送りしてもらったらいい のではないかと思っています。

4 つ目の特徴が、インターンシップです。3 年生が 6 月から 11 月の4ヶ月間インターンシップに行きます。 ご好評いただいています。40 社近い会社から内定をいただいております。内定してインターンを続けている 学生もいるので、早期離職がないのではないかと思っています。インターンを採用したい会社は 200 社くら いあります。そこから応募していただいて、そのうちの 100 社にマッチングしています。来年から無償になり ますので、4 ヶ月iUの学生を使えると言うのは企業にとってもメリットだと思います。 iU大学の名前を知っていただきたいので、かなり積極 的に高大接続をやっています。学生にとってはとてもい い機会になると思います。スマホを落としただけなのに でセキュリティの勉強をしたり、経営学、ビジネス経営、 ICT、英語、キャリア教育いろいろな授業をしています。 校内の教員の方だけでカリキュラムを作るのは非常に 無理があると思います。

高等学校における探求の問題点は?

大学や企業に丸投げ、既存の教育とリンクしない、企業や大学が提供するカリキュラムを教員が本当に理解 していない、興味がないと言う場合が困ります。教員に探求授業科目開発する時間がないのだと思います。上 位大学と接続がしていないので入試と連動しづらいと言う部分があるのではないかと思います。「教員、もっ と頑張れ!」「探究学習は生徒のためになる!」「地域との協働には意味がある!」と鼓舞するだけでは現場は限 界かもしれません。

大学から見た高大接続授業は?

いい授業はもちろん実施したいと思っています。教員の負担は減らしたい、派遣出来るいい教員が少ない。 入学者を確保したいです。複数校で共同実施出来れば教員の負担が減らせるのではないか、と思っています。 オンラオンなら負担も減りますのでうまく使っていただけるのではないかと思います。できれば入試と連動 した授業も実施したいと思います。お金はないのは分かりますが、交通費はご検討いただきたいです。とはい え高校の方が探究学習が進んでいる場合もあります。

高大接続授業を成功させるためには

高大接続授業を成功させるためには、探究学習の意味を理解して生徒に授業に臨んでいただきたいと思い ます。大学・企業・役所等、外部の力を高校主体でうまく使っていただいて、見方にしていただきたいと思います。実践の場を与えて最後まで生徒に自主的にやり切らせる、そして失敗することが接続授業をする上で大 事なんじゃないかと思います。

今後、学校に求められているもの

学校改革はマネジメント改革ではないかと思います。情報共有のスピードアップ、フラット化。意思決定の スピードアップ。現場への権限移譲。風通しのいい職場。新しい事にトライする校風。旧来の当たり前の見直 し。社会の動きと連動する、先を見据えた教育改革をしないと学校自体が成功していかないのではないかと思 います。私もこういったことを日々意識して大学をやっています。生徒が減っていきますので、いろんなこと が求めれられてきます。

今後、教員(ミドルマネージャー)に求められるスキルとは?

 一般教員のマネージメント能力。今後教え方も非常に難しくなってくると思います。学びのテクノロジーが 侵食してますので、職人技の教育ノウハウが難しくなってきます。教員に求められるのが、スタディサプリな どのツールをうまく使いこなして、先生方の負荷を減らして、学生のメンタリング、モチベーションアップな どの能力が求められるのではないかと思います。そして外部とのつながり、世の中の動きの理解。現場の教員 をマネージメントされている方に求められている能力なんじゃないかと思います。これができると学校が活 性化して、良い教育ができると思います。 いちばん大切なのは生徒募集です。先生方に頑張っていただきたいと思います。我々も必死で学生募集をや っております。高校がかなり厳しくなってきています。通信制高校、フリースクールが増えています。ミドルマ ネージャー、一般教員のスキルアップを目指していかないと闘っていけないと思います。

大学の悩み事

最近の大学の悩み事をお話ししますと、やっぱり一番は学生募集。外部資金の獲得。学校法人ガバナンス改 革。教学マネジメント。23 区問題。補助金問題、定員割れ 8 割を 3 年続くと補助金が出ません。高校と同じよ うな悩みを抱えています。
以上、ご清聴ありがとうございました。


関西弁を交えながら楽しくお話ししてくださいました。大変なこともたくさんおありだと思いますが、楽し んで目標に向かって力強く頑張ってらっしゃる姿が印象でした。

質疑応答

進行 3D教育研究会 副会長 樋口 元先生(京華商業高等学校 校長)

Q 朋優学院高等学校 田中 寛人先生

グリット、と言うワードは気になっていて育てたいと思っていますが、難しいと感じることがあります。 素材としてそういう子の場合はいいのですが、行けそうでまだやりきれない子をどう育てていけばいい のか?それと探究の意味を理解させるというところで、すぐに入ってくる子と、入試と関係ないと言う ところから全然入っていかない子に大きく分かれてしまいます。伝わらない子にどうやっていけばいい のでしょうか?

A 宮島 徹雄先生

グリットは時間がかかります。寄り添って諦めずに。いつ爆発するか分からないので、信じて伴走してあ げることが一番大事なのではないかと思います。探究の意味を理解するという部分で言いますと、なか なかすぐ理解出来ないと思いますので、言い続けるしかないと思います。生徒の耳に入る、受け入れるこ とができる時期があると思います。22 の子でも 1 年くらいかかりました。17,18 の子ですぐ入ってく る子は少ないと思います。

Q ドルトン東京学園中等部・高等部 髙野 淳一先生

将来的に起業する人にとっても、起業しない人にとっても、起業する力、そのための学びはどう役立ち ますか?

A 宮島 徹雄先生

おっしゃる通り、起業はあくまで手段だと思います。大事なのは自分で考えて事業を組み手立て、失敗す ること。チャレンジすることで教えられていないことをトライすることが一番大事なんじゃないかと 思います。それを身に付けてくれればどこの企業に行っても役に立つと思っています。その思い入れが あって私はこのカリキュラムにしました。

京華商業高等学校 樋口 元先生

私自身も学校の教員であっても、アントプレナーシップが必要だと思います。学園の運営にしても、クラ スの運営にしても、学校行事の運営にしても、一人ひとりの先生方が企業家精神のようなものは持って いて、組織の中で動くのですが、自分の学年はこう育てたい、こうありたいという気持ちがあって、そこ で新しい教育、目の前にいる生徒たちへの教育ができていくのかなと思います。以前、企業家の先生の フォーラムの方にお越し頂いて、授業をやっていただいたことがありました。これは学校の教員だけで はなく、いろんな企業に就職されていろんな部署にいても同じだろうと思います。

Q 朋優学院高等学校 小野間 大先生

本校は偏差値の高い大学への進学が年々伸びていることが評価されて、募集も増えています。大手企業 に勤めて安泰という社会は終わっているにも関わらず、未だ生徒・保護者の多くが求めているというこ とが事実としてあります。私たちもそうではないということを発信はしているのですが、本校の募集に おいてもそこが難しいところです。ママブロックをどうやって解決するかということをお聞きしたいで す。

A 宮島 徹雄先生

その時はお母さん、そんな時代ではないですよ。お気持ちも分かりますが、それで息子さんは本当に幸せ ですか?と言います。最後は選んでくださいと言いますが、現状を話すと理解してくれる親御さんは非 常に多いです。教職員総動員で個人面談をするのがいいのではないかと思います。

Q 株式会社リクルート 辻本 裕介様

私どもがやらせていただいているのは中学校・高等学校の先生方に対してのICT化の支援です。先生方 の意思決定のスピード感が法人と全然違ったり、組織系統が全然違います。我々民間企業として接する 上で、どういったことが企業に求められているのか?学校の理想の実現に貢献したいという思いはある のですが、民間企業として接する意味は?お伺いしたいです。

A 宮島 徹雄先生

ご自身で自信のあるプロダクトを全部の学校に入れることが使命なのではないでしょうか。プロダクト を信じて徹底的に売り込めばいいと思います。成功事例を横展開して先生方の負荷を下げる提案をやり 切るといいと思います。

Q 朋優学院高等学校 佐山 周先生

デジタルツールの発達により、生徒たちの思考力やイメージする能力が落ちている気がします。それを 克服し、伸ばしていくにはどうすればいいでしょうか?アドバイスをいただきたいです。

A 宮島 徹雄先生

生徒たちの能力は昔に比べて落ちていると思います。頑張って勉強することとか、一つのことをやり切 ることが、極めて少ないのではないでしょうか。あまりにも世の中便利になりすぎています。夏休みの宿 題をgoogleがやってくれるそうです。仕方がないです。私たちの頃は正確に記憶して、それを再現すると いう努力を入試で求められましたが、今は違ってきています。その能力を伸ばすしかないのではないで しょうか。克服するには、チャンスを与えて実践の場に生徒を出してあげることだと思います。今の学生 はインターネットで調べることや、まとめること、プレゼンもすごくうまいです。今の子は人からお金を もらって何かするということを、やっていません。それをやっている子とやっていない子は相当違うと 思います。先生方が工夫していかに生徒にリアルの場を体験させるかが先生方に求められていることで はないでしょうか。実践の場に引き出してください。失敗させてください。

アンケート集計結果報告

進行 3D教育研究会 副会長 髙野 淳一先生 (ドルトン東京学園中等部・高等部 入試広報部主任)

髙野 淳一先生から、教員の方のアンケートの集計結果報告がありました。

第27回 3D教育研究会

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ご挨拶

日頃より、株式会社 KA 教育の教育活動にご協力を頂き誠にありがとうございます。 この度『第 27 回 3D 教育研究会』を開催することが出来ました。 『新教育課程で求められる資質・能力の育成』と題し、東京大学名誉教授の市川伸一先 生による講演が行われました。開催時のレポートを作成致しましたので是非とも周囲の 先生方へご回覧頂ければ幸いです。

21 世紀を担う生徒達にとって、『3D 教育プログラム』が、少しでもお役に立てればと 願う次第でございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

令和 3 年 12 月吉日
株式会社 KA 教育
代表取締役 菊地 淳

第 1 部「 講 演 会 」

会長挨拶

3D教育研究会 会長 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 副校長)

皆さまこんにちは。本日は会場を貸していただき、ありがとうございました。ま た市川先生にはお忙しい中、お越しいただきありがとうございました。 本日の講演はいろんな先生方に聞いていただきたいと常々思っていました。今 回、学習指導要領が改定になりました。今回はものすごく大きな改定で、21 世紀 を生きる子どもたちがどういう力をつけないとけないのかということを文部省は 真剣に考えました。文部省だけではなく、全世界、OECD諸国全てがどういうふう にしたらいいか真剣に考えています。全世界が同じ方向を向いている感じがしま す。大きな改定は何かというと、資質・能力ベースになったということです。中学 校は今年から変わりました。学習指導要領が普通なら 1 年生から変わるのですが、

3 年生も評価基準が変わりました。そういう中で先生方が右往左往していて、その前の周知があまりなく、こ ういう研修をする必要があり、意義があると私は考えています。例えば私たちは知識・技能ベースだと経験が あるのですが、思考力・判断力・表現力、この辺まではまだ先生方も許せるよとおっしゃるのですが、次の学 びに向かう力とか人間性の評価はどうやってするのか。その目に見えないパフォーマンス評価をどうやって いくのかということがこれからの学校に求められています。その評価についても周知がありません。中学校も 調査書が、各高校に次の入試には評価がついてくるのです。思考力・判断力・表現力すべてにAがついている のに 4。そういうことがあってこの後の研修がされないと、日本の教育の評価体系そのもの、これからの学習 の向かい方が心配です。今までのコンテンツベースがコンピテンシー・ベースにどうやって変わっていくか。 これから生きるために必要な資質・能力をどうやって身につけていくのか。そのためにはどういう授業が必 要か。市川先生にはそういうことを含めた話をお聞きしたいと思っています。よろしくお願いします。 ご挨拶に代えさせていただきます。ありがとうございました。

講演

「新教育課程で求められる資質・能力の育成」

中央教育審議会教育課程部会委員 東京大学名誉教授 帝京大学中学校・高等学校校長補佐 市川 伸一先生

新教育課程で求められる資質・能力の育成 _授業と評価はどう変わるのか

来年から高校も 3 観点での観点別評価が入ってくるというということで、今年度になってから公立も含め て、評価の話をしてほしいという依頼が非常に多いのです。私も学習評価のワーキンググループの分科会の主 査をやっていたので立場上説明をする責任があると思っています。授業の準備や教材研究に時間を割きたい 中で、高校の先生が評価を律儀に受け止めて、やっているわけにはいかないというのは私も十分承知していま す。評価の専門科の方はきちっと評価を作ろうとします。私は近いところにはいますが評価の専門科ではない ので、これくらいで十分であろうという話を私からはしたいと思います。

自己紹介

私は大学に入ったときは理系で、天文学に進みたいと思っていました。その夢は破れて、天文学には進めま せんでしたが、心理学の道に進みました。文学部の中の実験心理学です。実験心理学は文学部ですが、理系に近 いことをやります。心理学的な実験や調査をやり、それを統計的に解析します。理系から行ったので順応でき たかなと思います。その後、教育に興味を持つようになり、教育心理学と言われる分野に進みました。東京工業 大学で教職課程の教員を務めていたこともありまして、東京工業大学で教育学の講義をしていました。その次 に東京大学の教育心理学のコースで約 25 年務めました。約 2 年半前に定年になり、できれば現場に近いとこ ろで仕事がしたいと思いました。たまたま知り合いが紹介してくれたのが、帝京大学中学校・高等学校でした。 そこで教員研修をやったり、生徒向けの授業も時々やります。校長補佐という役をいただきまして、2 年半経ったところです。

学力の3要素

今回の学習指導要領の改訂の少し遡った話をしたいと思います。そんなに急に出て来たものではありませ ん。2002 〜 2008 年に学力の 3 要素が言われるようになりました。前回の学習指導要領の改訂期に起こった ことです。1990 年代から生きる力ということが言われました。ペーパーテスト学力ではなく生きる力を育 てる、生きる力とは何か?知・徳・体ですが、そのうちの一つが確かな学力。豊かな心、健やかな体。こういっ たものをトータルにバランスよく育てていきましょうというものです。「確かな学力」とは何か?生きる力の 一つの側面です。2003 年の答申でこのように出ています。知識・技能。問題発見、主体的な判断・行動、より よく解決。学習意欲。こういうことが「確かな学力」の中身である。それを基に 2006、2007 年に教育基本法、 学校教育法が改正されます。学校教育法の中で学力の 3 要素にあたるものが、基礎的な知識・技能。思考力・ 判断力・表現力等。主体的に学習に取り組む態度。こういうものを育てていくのが学校教育の役割だと。

なぜ、3 要素か?

1990 年代に日本の教育はゆとり教育にシフトして
いきました。1998 年にゆとりの集大成の指導要領が できました。ところがその直後に学力低下になり、ゆと り教育などと言ってる場合ではない、日本の子どもたち は昔に比べてはるかに勉強しなくなっているし、学習意 欲も学力も落ちています。文科省も最初はそんなことは ないと言っていたのですが、そうではないというエビデ ンスも出て来てなんとかしなければいけない、と学力向 上にシフトしようと言うことになっていきました。大学 や社会でも必要になる能力の基本とは何なのだろうか。どういう力を求めるかというと、このような 3 つが挙 がってきます。まず着実な知識を持っているか。思考力、コミュニケーション力、創造性。学習意欲や学習スキ ル、能動的な参加態度。この 3 つから評価することが多いと思います。学力向上とは言っても、過去の「知識偏 重」や「偏差値教育」に戻すわけではないと文科省は言いたかった。当時のコンセプト(人間力、社会人基礎力、 学士力、キーコンピテンシーなど)とも方向性が合致して行き、この 3 要素ということになりました。

新学習指導要領

1998 年がゆとりの集大成、いろんな議論があり、教育基本法、学校教育法が改正され、2008 年の前回の改 正です。その流れを今回も引き継いでいると思っていただいた方がいいと思います。前回も出て来た、生きる 力。習得・活用・探求。教授と活動のバランス、より強調・拡張するためのキーワードです。学校と社会が連携 しながらカリキュラムに参加するという意味が含まれています。それぞれの教科がどういう資質能力を育て るのかを話し合ってやってほしいと思います。アクティブ・ラーニングが今回の改訂の目玉と言われました が、その意味するところが曖昧なので、アクティブ・ラーニングを主体的・対話的で深い学びに変えました。 カリキュラム・マネジメントですが、各教科ではやっているが、教科横断的に例えばコミュニケーション能力なら、それぞれの教科が自分の教科のどういう単元に活動を入れてコミュニケーション能力を育てていくの か。トータルとして、どういうコミュニケーション能力が育つようにするのか考えているかというと、ないと 思います。小学校の先生なら、一人でいろんな教科を担当しているので可能ですが、中学・高校になると別の 教科の先生が集まって教科横断的に話をすると言っても難しい。PDCAサイクル、計画を立てて実際に実行 して、それが上手くいっているかチェックして、改善のアクションに結びつける。こういうことも教育の中で 考えていってくださいというのも分かるのですが、それを学校全体でやるというのは難しい。そのためにはリ ソースの配分を考えてください。リソースの配分は人、物、金などの配分を考えてください。人というのは学校 の先生だけではありません。地域の方、保護者の方、いろんな方と連携しながら、どこにどういう人を配分する か考えてください。物というのは施設や設備。お金というのは予算です。これらの配分を考えて、うまくそれが 効果的に進んでいるかPDCAサイクルで対処していく。これは相当難しいことを要求していると私は思いま す。高い理想だと思うので、20 〜 30 年かけてやっていくというくらいの趣旨でいいのではないか、今回の改 訂を機会に実現していく入り口に立ったというくらいでもいいのではないかと思います。

質・能力の 3 つの柱

学力の 3 要素をほぼ踏襲しています。生きて働く「知識・技能」の習得。思考力、判断力、表現力等。学びに向 かう力、人間性等。これが今回の指導要領の柱と呼ばれているものです。それを踏まえて評価はどうなるかと いう話になります。学習評価の目的は何かという根本的な議論をしました。評価をフィードバックすることに よって学習改善のための情報を提供するというのが評価の一つの役割である。もう一つは評価することによ って教師自身が自分の授業を改善していく。指導の改善に活かす。この二つが学習評価の目的です。これまで やってきたことの大胆な見直しもありました。小中では 4 観点別評価をやっていました。その 4 観点を簡素化 して 3 観点にしましょう。これを学力の 3 つの柱に対応したものにしたい。今回、小中だけではなく高校でも やってください。高校の先生は場合によっては一人で 200 人見ています。丁寧に評価するのは不可能と、高校 から反対が出ると思っていました。ところがほとんど反対がありませんでした。私は座長としてはほっとしま した。教科ごとの評定については揉めました。ABCの 3 観点で評価がついているのだから、総合的な 1 〜 5 の 評価は研究者側はもういらないのではないか、つけたい学校はつければよいと考えていました。これに学校が 強く反対し、小中高は評定は必要と考えていて、存続しました。そして「主体的に取り組む態度」をどう評価す るのか。評価によってPDCAを回すようにしてください。 Plan…指導計画等の作成。Do…指導計画を踏まえた教育の実施。Check…児童生徒の学習状況、指導計画等 の評価。Action…授業や指導計画等の改善。

観点別評価:知識・技能

評価の 3 観点とどういう風に対応していくのか表し ています。知識・技能は知識・技能と対応しています。 思考力・判断力・表現力等は思考・判断・表現と対応 しています。学びに向かう力、人間性というのは感性、思 いやりはABCで評価するのは馴染まないので、個人内 評価で記述による評価にすればよいでしょう。学びに向かう力の評価は学習に取り組む態度として評価してい きましょうと言うことになりました。評価の対象は基本 的知識・技能がどれだけ身についているかということ です。それは「理解」を伴った知識・技能ということを大 事にしてください。基本的な問題解決、教科書レベルの 問題をしっかり解けるようになってほしいです。

観点別評価:思考・判断・表現

評価の対象を与えられた知識を活用した、より高度な 知識活動を求めたい。応用・発展的な解決と表現。問題解決方略と基礎知識を使った問題解決と回答記述。例 えば数学でしたら、回答のプロセスを記述するようになりますし、普段の授業や討論でもそれをきちっと表現 出来るようになってほしい。自ら課題を設定し、創造的に解決することを含む。問題を自ら発見したり、設定し たりする。分析して、考察を行って、探求する。それを報告したり、発表したりします。こういうことをやってく ださい。高度な要求ですが、これからはそういう力を育てていってほしいのです。

観点別評価:主体的に学習に取り組む態度

どういうことを求めているかというと、自らの学習に積極的に取り組み改善しようとする意思・行動です。 生徒もテストや授業でPDCA的なことで回しています。それが上手くいっている生徒とあまり上手くいって いない生徒がいます。その学習のプロセスを改善していかないと学力もついていきません。二つの側面から見 ていきましょう。一つは粘り強い取り組みを行おうとする側面。知識・技能や思考・判断・表現に向かう粘り 強い努力。例えば、授業では積極的に先生の話を聞いたりノートを取ったり質問したり討論に参加したりとい う積極的な態度で授業を受けています。家庭学習も含め、自分で計画を立てて自主的に勉強を進めているか。 量的な努力と考えていただくと分かりやすいと思います。ただ、量だけではない。学習プロセス改善上の工夫 をどのくらいしているかということです。自分の学習能力をどのくらい自己診断できているかをメタ認知と 言います。学習が苦手な子はそれがもやもやしています。私の研究室で地域の子どもたちの学習相談を 30 年 ほどやっていますが、小学 3 年くらいから高校 3 年くらいまでの生徒が夏休みに研究室にやってきます。一人 一人面談をして、家庭教師のように内容を教えます。東工大に来た時から始めた活動です。学力の低い子はメ タ認知がよくない。どこが分からないのかが自分で分かっていない。分かっているのか分かっていないのか も、分かっていない。どうしたらいいのか。これは学習方略というものです。どんなやり方でやっていったら出 来るようになるだろうか。そのレパートリーがあまりない。それだとやっても出来るようになりません。いろ んな方法を知った上で自分の学習をコントロールしていく工夫も見てください。学習計画やワークシートを 提出してもらったり、テスト返しレポートも効果があります。テストを返された後にレポートを書きます。人 によって差があります。ただ正解を書いてくる人。自分はどういうところをなぜ間違えたのか、自分がしやす いミス、勘違い、問題のポイントに気づかなかったなど分析する人。そういうことまで書いてくると次の学習 にも活きてきます。学習のプロセスを見ていく。評価だけではなく、何らかの指導を入れてください。それが自 らの学習を調整しようとする側面の観点になります。

学習の自己調整(Self-Regulation)

平たく言えば「学習のPDCAを自分で回すこと」です。 目標設定、見通し、計画、遂行、振り返り、内省です。能動 的に自らの認知・感情・行動を制御して目標を達成する。 学校ではそういう力を育ててほしいです。欧米でもこの ような研究はありまして、予見、遂行コントロール、自己 省察の3つ。PDCAの前にPlan・Do・Seeというのが ありまして、それをとってきたようなものです。メタ認 知というのは非常に重視します。モニタリングというの は、学習状況を自分で点検、評価するというものです。そ れからコントロールです。学習目標・学習方略の変更・修正をして改善を図る。こういうことが学習の自己調 整です。 「主体的に学習に取り組む態度」の評価のイメージです。縦が自らの学習を調整しようとする側面。横が粘り 強い取り組みを行おうとする側面。「十分満足出来る」状況だとA、「おおむね満足出来る」状況だとB、「努力 を要する」状況だとCです。

教員研修と学習評価計画の例

今、私の学校でやっていることをお話ししたいと思
います。今年の 3 月にやりました。学習評価に関する教
員研修。学力の 3 要素、新学習指導要領、観点別評価の導 入。どういう動きがあるのか説明いたしました。どんな
評価をするのか、個人メモを 10 分ぐらい考えて作成し てもらって、教科ごとにそれを見せ合ってグループ討論 してください。教科ごとに発表してください。個人メモ はこういうものです。まず知識・技能や思考・判断・表現、 主体的に学習に取り組む態度が左にあります。その観点 ではどういうことを重視したいのか、重視する項目を挙げています。その右にはそれをどんな材料を使って評 価するか。小テストやパフォーマンス、スピーチをするなど。主体的に学習に取り組む態度ならテスト返しレ ポートなど。各観点にどういうウエイトをつけて評定を出すか。それは人によって違いますが、足して 10 にな るようにまず個人で作った上で、グループ討論して全体発表するのですが、個人メモを他の先生の意見も聞い て修正して、評価計画を完成した形にして教科主任に提出してください。教科主任は各教科ごとにまとめを作 るようお願いしました。まとめに従ってもらうのではなく、各先生を尊重しますが、他の先生を参考にしてく ださい。これは共有して見られるようになっています。今年は中学は始まりました。高校は来年の 4 月以降に 始まりますが、それに向けて準備をしてください。生徒に対してですが、私は大学院生と一緒に行って、いろん な中学・高校に学習法講座をやっています。噛み砕いて心理学の話をしながら、自分の学習改善を考える講座 です。先日も高校生に「人間の情報処理と記憶」の話をしました。記憶の話はリクエストが多いです。記憶につ いての悩みを持っている高校生は多いと思います。記憶が得意な高校生はいないと思います。聞いてみると単純反復して、やったという自信になっている。私はかわ いそうだなと思いました。私は認知心理学という人間の 情報処理を研究する分野に基づいた教育心理学の話を して、これはあくまでヒントですという話をします。や るかやらないかは君たち次第です。良さそうだと思った ら自分に取り入れて、自分の学習方法を確立させてほし いと話しました。感想を書いてもらうと、この話が響く 生徒と響かない生徒もいます。テストの後に何をするか で学力がかなり変わってくる。試合の後に勝ち負けで一 喜一憂しているのと、なぜ負けたのか分析して普段の練習に活かすのをやるかやらないかで違ってくるのと 同じだというと、分かってくれる生徒もいます。生徒にこういった話をしながら、先生方にも各教科の中で学習方法に関する話を是非入れてくださいと申し上げています。

自己調整の基礎にある「学習観」

学習のしくみや方法についての考え方。これは生徒一 人一人も持っているはずです。人生観、世界観というよ うに、学習とはどんなものだ、だからどんなやり方でや るとうまくいくという考えを持っているはずです。自分 の学習観を見つめ直してみましょう。練習量に比例して 学力がつくと思っている生徒もいれば、同じ時間でもど ういう攻略でやるか考えたい生徒もいます。丸暗記する のが勉強だと思っている生徒もいれば、なぜそのやり方 で答えが出るのか理解を重視する生徒もいます。結果重 視と過程重視ですが、テストが返ってくると点数ばかり気にして合ってるか間違っているかばかりを気にす る生徒もいれば、どこを間違えたのか、なぜできなかったのかプロセスが大事という生徒もいます。高校生に なればいい点を取ることもあれば悪い点を取ることもあります。必ず失敗があるのですが、それに自信を無く してやる気を無くしてしまいます。失敗をしたくないのか、失敗は成功の基なので、なぜ失敗したか考えて普 段の学習に活かせば次はできるようになるという姿勢をもっているか。小学校の低中学年では上記のような 反復練習重視の考え方でなんとか対応出来ています。高学年になると量が増えてくるとそれでは頭に入らな くなってきます。例えば漢字ならへんとつくりがあるという知識があると、丸暗記するよりはずっと覚えやす くなるし、応用も利きます。反復は大事ですが、それだけではなく工夫をいれる。教科ごとにどんな工夫がある か、講座の中で話していきます。

指導と評価の一体化

指導と評価が一体となったサイクルにしましょうとういことです。指導はするけど評価はしない、これはま ずいのです。評価されないならやらないということになってしまいます。逆に評価することを指導しない、学 習態度など評価するが、どうやったら改善されるのか指導しないのはまずい。目標にそって指導し、指導した

ことを評価する。指導内容と評価内容の齟齬がないようにしましょう。形成的評価という言葉も今回よく使わ れていますが、評価というと指導の最後に一括して成績をつけるだけ。学習プロセスにおいて評価し、指導を 調整していきましょう。途中でつまづきを克服して、高い習得に至るようにしましょう。途中に評価をこまめ にして、最終的に高いパフォーマンスにする。途中にする評価を形成的評価と言います。最後に一括してする 評価を総括的評価と言います。このことを今回の指導と評価ということで留意して下さい。

具体的にどのような授業をするのか

習得と探求を分けてメリハリをつけることは大事です。こういうことを知識・技能として身につけてほし い。普段は習得の授業が多いと思います。そこでもアクティブ・ラーニング的なことは起こり得ます。生徒自 身による説明活動、学び合い、教え合い、協働的問題解決。「教えて考えさせる授業」の理解確認や理解深化も 習得の授業の中に入れています。探求的な授業では生徒自身による課題の発見・設定、計画、実施、協同的な探 求活動、表現活動もそこに入っています。習得と違うのは、生徒自身が課題を設定しているということです。 習得は習得目標というのがあり、先生側が授業でこういう力や知識をつけてほしいということで課題は先生 が決めます。探求的な授業では生徒自身が自分の興味関心に基づいて課題を決めます。これは総合的学習の 時間で行われました。ThinkQuestは中高生が自分が興味を持った課題をホームページにまとめる世界的コ ンテストです。英語版で、入選したものは世界中で子どもたちの教材として使われます。Researcher-Like Activityは私がつけた名前です。研究者のように自分で課題を設定します。後で紹介するのは数学ですが、自分 で課題を設定し、問題を作って、回答も作り、ポスターにして学会のポスター会場に貼って発表。参加者とディ スカッションするという授業です。

教えて考えさせる授業」とは

日本の教育というのは一方では詰め込み教え込みと
言われている授業があります。一方では 1990 年代から 教えずに考えさせる授業というのが出てきて、教師が教 えるのではなく子どもに気づかせる、発見させる。課題 を与えたら子どもたちにみんなで考えていきましょう、 という訳です。私はこれはまずいなと思いました。それ をすると学力がある子にとっても、ない子にとっても破 綻していったと思います。先生は子どもに思考力、表現 力をつけるとよかれと思ってやって、ついていけない子 が出てきます。そういう子は学習相談に来ます。先生が教えてくれないから分からないんです、と言うんです。 何を言ってるのだろうと思いました。問題を与えたら後は教えてくれない、授業で何をやったかつかめないま ま、授業に出るたびに分からないことが溜っていくと言います。基礎的なことは学力が低い子を念頭に置いて 分かりやすく丁寧に教えましょう。そこである程度基礎知識を共有した上で、塾に行っている子にとってもや りがいのある課題を用意して深い習得を促す。そこにアクティブ・ラーニングを入れるということです。一人 では難しいけれども相談し合って考えていく。 高校物理の落体運動。空気のある中では重いもの程速く落ちる。真空なら重い物も軽い物も同じ速度で落ち

る。理解深化課題としては空気中ではどうだろう。ピン ポン玉の一つは中空、一つは中に金属を詰めたもの。こ の二つを一緒に落としたらどうだろう。空気中だから空 気抵抗があるだろう。空気抵抗は速さに比例する。理系
の高校 2 年の生徒でしたが意見が割れます。中に金属を 詰めたものが若干速く落ちました。重い物が速く落ちる が、重い玉と軽い玉が時間とともに速さがどう変化して いくのだろうか。これをグループでグラフを作っていき ましょう。物理ではこれをVTグラフと言います。縦軸V 速さ、横軸T落とし始めてからの時間、このグラフを書い
てみましょう。4 人ずつくらいのグループで相談しながらグラフを作っていました。 もう一つお見せしますが、社会科の授業で埼玉県の先

生なのですが中 1 です。どんな様子か見てください。こ れは藤原氏摂関政治のところです。先生は始めにきちっ と教えるというところがポイントです。アクティブ・ラ ーニングだからと言って、いきなり議論させたり共同学 習するのではなく、教えるべきことは教えた上で教わっ たことが説明出来るくらい分かっているか、これが理解 確認です。その次に理解深化という課題です。ここでグ ループになって調べて考えをまとめる。歴史上の人物に なったつもりで、時代の様子やその時の気持ちを伝えるストーリーテリングという活動を最後に入れていま す。これのグループで練習して、最後に発表します。教えることと活動することを組み合わせた授業が教えて 考えさせる授業の典型だと思います。子どもたちの声が出ている授業は珍しいと思います。コンパクトな教師 の説明でも浸透します。理解しているかどうか、自分の言葉で表現出来るよう求めます。さらに深く考えるよ うな課題を出します。アクティブ・ラーニングを入れていき、全員が参加出来るような授業を目指すというこ とです。

考えさせる授業をOKJと言いますが、OKJの理念と して深い理解、メタ認知、Input-Output、バランスを目 指す。そのために 4 段階の授業構成をしています。OKJ に付随している方法というのは予習を入れることもあ ります。教科書は予習でも復習でも活用する。各授業者 が付け加えている方法はその通りやる必要はありませ ん。それぞれ工夫して入れて下さい。 最後に探求の話をします。問題づくりとポスターセッ ション。ひとりひとり解いている課題は自分で設定した ものです。

(探求学習の例の紹介がありました。)

図書・文献紹介

『開かれた学びへの出発(』市川伸一著 金子書房 1998) 」

『学ぶ意欲とスキルを育てる』(市川伸一著 小学館 2004) 

『「教えて考えさせる授業」を創る』(市川伸一著 図書文化 2008) 

『教えて考えさせる授業 中学校』(市川伸一著 図書文化 2012) 

『教えて考えさせる算数・数学』(市川伸一著 図書文化 2015) 

『授業からの学校改革(』市川伸一著 図書文化 2017) 

『速解 新指導要録と「資質・能力」を育む評価』(市川伸一編 ぎょうせい 2019) 

『教職研修』(教育開発研究所 2020.6月号特集:新学習指導要領下の学習評価・テストはどうあるべきか)

『「教えて考えさせる授業」を創る アドバンス編』(図書文化 2020)

紹介リソース ビデオ等

『学力と学習支援の心理学』放送大学アーカイブス(全15回) 第6回:全体的解説・算数、第9回:理科、第10回:社会、第11回:英語、第12回:事後検討会(三面騒議法)

『教育政策と学校の組織的対応』放送大学教員免許更新講習 第2回:新学習指導要領と教育課程実施状況(市川) 授業ビデオの貸し出し(公的教育機関のみ 2ヶ月間) 1.かけ算九九の問題づくり(小2算数) 2.4桁のひっ算(小3算数) 3.円の面積(小6算数) 4.方程式とグラフ(中2数学) 5.因数分解の応用(中3数学) 6.大造じいさんとガン(小5国語) 7.藤原氏の摂関政治(中1社会) 8.物体の自由落下(高2物理) 9.合唱(小5音楽)

10.When is your birthday?(小6英語)

質疑応答

Q

評定をつけないことを論議され、それを反対したのが現場だったということですが、私が思うに現場の先生というのは最初に評定を考えて、それから観点を考えるのかなと思います。観点を先につけてから 評定をつけるという周知はされているのでしょうか?

A

私たちにしてみれば、先に評定をつけてから観点をつけるというのは想定外でした。観点をつけて評定 して総合点をつける、というのを想定していました。趣旨から言うと、まず細かく観点を見るのが優先だ ということです。それは生徒にもフィードバックしてほしいです。

Q

私もそう思っていて本校で先生方に言ったのですが、観点を先につけるなんてできないと言う話にな りました。各教科から観点のどこを見ていくかということを出していく必要があると思います。私は それを前もって生徒に出さなければいけないと言ったんです。評価の基準をどこまでできたらAなの かどこまでできたらBなのかというのをルーブリック化しないといけないのかなと思います。どの辺 まで周知して、どの辺までやるのかお聞きしたいです。

A

まず何に基づいて評価をするのか。評価の材料を評価される側の生徒にも最初からちゃんと伝えるのは 大事なことだと思います。生徒にしてみると何で評価されているの分わからない、という状況はまずい です。評価の基準を生徒に伝えてほしい。「規準」はどういう次元で評価するのか。「基準」は段階を分け るレベル分けです。基準を全国的に統一すべきだというご意見もありましたが、止めました。レベルが高 い学校は全員がA、レベルが低い学校は全員がCになって評価の意味がありません。評価は日々の学習改 善に活かすものであれば、それは学校の中で考えていただけばいいのです。

Q

本校は高校生も始めています。評価が大幅に上がってしまいました。観点から評定をつけると上がって しまい、評定平均が高めに出てしまいました。今までの既存の評価を新しい観点別評価につけると変 わってしまうのか、変わっていいのか、元に戻さなければいけないのか、お聞きしたいです。

A

もともと学校によって評価の基準は違うので、それぞれの学校でどういう評価の基準にすれば生徒に頑 張りがいがあるか考えてもらえばいいと思います。1、2 学期は観点別だけを出して、学年末には 1 〜 5 の評定を出すというのを普通にやっているので、観点別が先だということが前提になっています。観点 別が基本で、そこに何らかのウエイトをつけて学年最後に評定をつけるというのを想定しています。結 果的にこれまでと比べて高めになったり低めになったりすることはあると思います。

Q

私は教師ではなく、一般企業からの参加です。教員研修の学習評価計画の例のところであったのですが、 教科主任のまとめと全教員の評価計画を共有というところで、教科ごとのまとめを教科主任が作成、互 いに参考にするが統一しないというのは、固定概念的に囚われないとか、自由な発想を促すためにそう するということなのですか?会社の方針はシンプルに全部の評定を統一の見解でまとめていって、評定 を決めるというやり方だったので、これから入ってくる新入社員や若手を育てるのに逆行すると思いま す。そこのところの真意を聞かせてください。

A

教科ごとに一本化してくださいと言うと抵抗が出ると思いました。まだ 0 の状態から始めているので、今 は統一しないということです。

Q

観点の中で主体的に学習に取り組む態度というものをどう評価したらいいのか見当がつきません。「知 識・技能」や「思考・判断・表現」に関しての評価はこういったかたちで評価出来るのではないかとか、 試験において設問ごとに問える観点はこうだと設定することによってそこは問えるのか、という風にも 思うんです。やってる例があれば教えていただきたいのですが。

A

個別学習相談をやっていて、一人一人に学習の分からないところを教える中で学習法も折り込んでいき ます。この子は自らの学習を調整しようとする側面が弱いなど、気づきます。このままではなかなかでき るようにならないだろう。授業に対してメモを残している生徒もいれば何も書いていない生徒もいる。 頭に入っていてノートを取っていないのであればいいのですが、そうでなければ主体的に学習に取り組 んでいるようには見えません。テスト返しレポートでもただマルバツつけて正解を書く生徒もいれば、 間違って悔しいと書き込む生徒もいます。それは

工夫や努力の表れです。それを評価する。普段の授 業でも今日は○○くん、熱心だったとか、分からな いけれどたくさん質問をしてきたなど。それをメ モして、学期末に見返してプラス評価をします。そ れを積み重ねていって、主体的に学習に取り組ん でいるかの評価にしています。

授業をやっている中でひとりひとりにそういう評 価をつけるのは確かに大変です。普通はBなのです から、とりわけよければA。とりわけちょっとまずいなというのはC。くらいに考えればそれぞれにつ けることができるのではないでしょうか。

Q

知識・技能がAで学びに向かう力がCという生徒 がいます。それはCをつけていいのか、中学で混乱 しているのはそこではないかと思います。私なん かは、Bくらいでいいのではないかと思います。

A

連携させながら見てくださいと言います。ノート
を取らない生徒がいて、その子が成績がいいとす
ると、ノートを取らなくても頭に入っているか、 知っていたか。それはノートを取らなくてもいいけれど、同じノートを取らないでも知識・知能もCだと まずい行動です。ひとつの行動を見るのではなく、関連させてその子の学習行動を評価すればいいのです。

Q

学力の 3 要素の編成が複雑化していて、細分化して、現場の教員からすると見るべきところが増えて大変 になっているように感じています。市川先生のご意見、今後の展望をどうお考えなのかお聞きしたいの ですが。

A

知識・知能をとってみても、込められている意味が複雑化しているような気がします。活きて働く知識と 違うのではないでしょうか。知識は持っていることを評価するのではなくて、知識がベースにあるから できているという側面を大事にしましょう。どれだけ理解しているか、持っている知識を説明できるか。 学校の先生は授業で台本も見ずに説明しています。これは分かっている人の姿です。社会に出たら説明 できるかを求められます。クイズや面接では例えば、参勤交代制です、という正解が求められるかもしれ ないが、社会に出たら、参勤交代制とはどういうものか、なぜそういう仕組みが出来たのか、その結果ど ういうことが起こったのかということを説明することが求められます。何を何というか、ではなく何々 はどういうことなのかを説明するのが大事になります。学校で大事なことを丁寧に見ていこうと時代が 変わってきたので、そういうこともやっていこうという動きだと私は思っています。

Q

我々の思うメタ認知をもって生徒に学習に取り組んでほしいのですが、どういう風に方向付けをしてそ ういう感覚を持たせればいいのでしょうか。

A

生徒がどの教科にウエイトを置くのかは生徒自身が判断せざるを得ないことです。生徒自身が客観的に 自分を見てレベルが低いと知らないとメタ認知が育ちません。それを気づかせる仕組みを入れた方がい いです。他の生徒の様子を見て自分ももっと頑張ろうとか。先生が自分はA評価だと思ったけどB評価し かくれなかった、なぜBか聞いてくることはいいことで、説明してAの生徒のものを見せたら自分のと全 然違う。こういうことを書いていれば評価すると言うと、納得して次からはそういうことを頑張ろうと

思います。そういうやりとりが大事です。評価をつけっぱなしにしないでなぜそうなのかという説明を して、本人に納得してもらって良くなる手だてが本人にも見えてくるようにそれが指導と評価の観点で す。

最後にですが、ここに書いたことと小中に出している広報誌で述べていることと、文科省の国立教育研 究所が述べていることが若干違うことがあります。授業をいかにまじめに受けるか、授業だけで考えて いるところがあります。私の方は予習、授業、復習のサイクル全体の中で自分の学習を組み立てていく、 これは学習の自己調整だという言い方をします。どちらがいいかは学校の先生が最終的に決めてくださ ればいいと思います。

参加者全員での記念撮影

第26回 3D教育研究会

PDF版はこちらから

ご挨拶

日頃より、株式会社 KA 教育の教育活動にご協力を頂き誠にありがとうございます。 この度『第 26 回 3D 教育研究会』を開催することが出来ました。 『これからを生き抜くための主体的対話的で深い学びを促す実践的な演劇的手法を用い た授業〜自立的学習者・自律的市民を育てる〜』と題し、藤牧朗先生による講演が行わ れました。開催時のレポートを作成致しましたので是非とも周囲の先生方へご回覧頂け れば幸いです。

21 世紀を担う生徒達にとって、『3D 教育プログラム』が、少しでもお役に立てればと 願う次第でございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

令和 2 年 12 月吉
株式会社 KA 教育
代表取締役 菊地 淳

第 1 部「 講 演 会 」

会場:東京ガーデンパレス

会長挨拶

3D教育研究会 会長 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 副校長)

皆さんこんにちは。コロナ禍の中でこういった会が中止になる場合があるのは承 知していますが、人とのつながりが希薄になっている時だからこそ情報交換をし て知恵を出し合いながら解決法を探っていき、解決し、生徒の為に何ができるかを 考えたいと思います。今回のことを糧にして、今後に役に立てていきたいです。オ ンラインでやろうか、やめようか、という話も出たのですが、顔を合わせて話した いと、こういう機会を作りました。今日お話いただく藤牧朗先生はたくさんの免許 を持っていて、大学も文系から理系まで教えられていて、博学で多趣味な方です。 そういった一般的教養系の学問はこれから大事になってきます。是非講演してい ただこうと思い、お呼びしました。 本日は皆さん来てくださってありがとうございます。御礼申し上げます。

講演者プロフィール

藤牧 朗先生

ドルトン東京学園、佼成学園女子高等学校で理科(高校物理・化学、中学生物)の非 常勤講師を、法政大学で兼任講師として教育方法論(教職科目)担当を務める。 教員免許 10 枚所持。「学びの場のデザイナー」。温泉ソムリエマスター。 教育目標は「自立的学習者→自律的市民」の育成。担当する教科・科目にかかわらず、 与えられた教育の場を自分の実践の場として「主体的・対話的で深い学び(ディ― プ・アクティブラーニング)」を実現している。そのために、授業だけでなく、試験や 評価について創意工夫を怠らない。特に、授業ではホットシーティングをはじめと した演劇的な手法、評価ではルーブリック作成およびその利用についての実践から 多くの講演依頼を受けている。 厚生労働省委託事業「労働法教育に関する支援対策事業」検討委員。

講演

「これからを生き抜くための主体的対話的で 深い学びを促す実践的な演劇的手法を用いた授業
~自立的学習者・自律的市民を育てる~」

自己紹介

これだけで 2 時間。私は私立の文系と国立の理系、大学を二つ出ているんですが、最初の大学に行った時に 学生結婚で 20 歳で結婚して、大学出る時には子どももいました。やればなんとかなると思っていました。学校 教育指導の経験も私立、公立、中学、高校、専門学校、大学…いろんな学校へ行きました。

提案する人間、企画家

私は企画家です。いろいろ企画してきました。大きな企画は使ってもらえないことが多いですが、チャイム を無くしましょう、朝のミーティングを開きましょう、など小さな企画は形になりました。中高 6 年間通した 全体のプレゼン発表をしましょう、というのも形になった企画のひとつでしたが、私の本当の狙いは違いまし た。本当に求めていたのは今で言うところの『総合的探求』。6 学年通したグループを作って、各先生が出した テーマにそれぞれ集まって、中高共通の時間でやりたいというものでした。大学の卒論のようなものを作ると いうのも提案しました。それを自分が学年主任をしたクラスでやってみたことがあり、うまくいきました。他 の学年にも提案しましたが従来型がいいということで、残念ながら却下されました。

『社会科』の教員として

学校で社会科の教員を 10 年、その後理科の教員を 2 年やりました。社会科は何のためにあるか。生きるため にあると考えています。知識暗記式の授業ではなく、せっかく生きていく上で大切な「公民」をやっているのだ から、公民をやって考える場にしよう、と。教科書は資料として、考える場にする授業にしました。例えば選挙 制度。今、こういう選挙制度になっているのはなぜか?そこにどういう意味があるか?他の選挙制度よりどこ がいいの?どこが悪いの?一緒に考えよう、という授業にしました。演劇型授業。役割を割り振って、生徒がそ の役になりきる。そういう議論する授業を始めたら、生徒がのるようになりました。
公立の教員をやってすごく勉強になりました。公立はい ろんな生徒がいます。男女も同数。いろんな問題が起き て、対応していきます。

『自然科学』の教員として

3 年前から理科の先生をしています。小学校のときは理 科が楽しかったのに、中学になったら理科が嫌いになる 人がすごく多いんです。生徒が理科を嫌いにならないよ うに、実験をたくさんするという作戦があります。私は 違う方法で知識をつけたいと思い、今、やっているとこ ろです。生徒が否定的なことを言ってくると、応えるチャンスができたと感じています。そして納得してもら います。中学 2 年までなら変えられると感じています。生徒が理科を嫌いにならないようにということを一番 意識しています。

『共通一次』~『センター試験』~『共通テスト』

私は 1960 年生まれ、共通一次の一期生です。共通一次は 1 〜 5 回まで受けて国立が受かりませんでした。セン ター試験になってから受かるようになりました。来年の共通テストも申込んでいます。なぜセンター試験を受 けるのかというと、生徒の気持ちを忘れてはいけないというのが理由です。前年との比較も含め、その体験を 生徒に話すことができます。高校生を教えている間は受けます。

教員採用(試験)について

教員採用試験を昨年度は 5 つの自治体を受験しました。受かったのが横浜市の学校で 1 年間働かせていただ き、すごく勉強になりました。その後いろいろな理由があり、私立に戻りました。1 次試験が筆記試験のとこ ろは全て合格。面接で落ちました。試験の環境を体験して、例えばトイレが不便な外しか使えなかったり、教員 や教員になろうとする人をもっと大切にする姿勢がなければいけないんじゃないかと思いました。これは東 京や私立の学校の方がいいと思います。

『私立』の子と『公立』の子

私の経験で思ったことですが、『私立』の子と比べて『公立』の子は思いやりがあると感じます。例えば重い荷 物を持っていると「先生、持ちます」と言って持ってくれる。私立は今までそんなこと一回も無いです。自然に 思いやりのある行動ができるように育つのが『公立』の子なのか。ならば『私立』の子に別の魅力を何かつけな ければいけないと強く思います。それは従来型学力なのかもしれません。『公立』の子たちは先生を主役とし てなんとかしようとするんです。『公立』の中学生はこれだけの力があるんだと感動しました。『私立』の子た ちは主役は自分たちだと思ってます。『公立』の子たちのそういうところに十分対抗出来る魅力を『私立』の子 たちにつけなけらればならない。ましてやお金をもらっているのだから。だから私は企画を考えるのです。そ れが私の思いです。

『カラオケ授業』

力を本当につけるならこういう授業ではいけないというのが『カラオケ授業』。教師が一方的に話し、力をつけ ます。授業準備をしたり、説明したり、教師だけが学んでいる教育体制。そして完璧な説明ができたことに満足 する。それは、正解を求める人間、教えてもらうのを待つ人間、自分で考えない人間を育てているのではない か、それは絶対にいけない、考えてもらうようにしなければいけないと思っています。高校 2 年生以上にこう いうことをやると「あの人は教えてくれない」「もっと教えてください」と平気で言ってきます。それでいいん ですか?グループワークで「指示してください」、グループワークはグループ内で話し合って考えるべきなん じゃないでしょうか?それもしません。教えてもらうのを待つ人間。そういうふうにしたのは誰か?私にはそ れは高校の先生に思えてならないのです。

私の『教育目標』『目的』

『自立した学習者』『自律した市民』の育成。これは私の言葉ではないんです。今年の 1 月 20 日に亡くなった渡 辺淳先生の言葉です。1997 年にお会いした人です。公民科教育法を教えに大学に来てくれました。そこで学 んだことです。『自立した市民』になるために自分で学べる、そういう人になるためにどういう手法があるか。 その中身が完全にアクティブラーニングなんです。演劇的手法を私は授業に入れます。それが残念だが、高校 2 年で初めて入れると入りません。時間的にではなく、動いてくれません。中学では簡単に入ります。最悪高校 1 年。合宿などで学生に先生を知ってもらえているところではできますが、従来型の説明中心のでいくしかあ りません。ただKP法を入れています。演劇的手法を入れたくて仕方がありません。入れると学びが全然違いま すよ。学びが自分ごとになります。社会科、国語、英語が入れやすいです。理科は入れにくいですが、今、ドルト ン東京学園で生物の授業でやっています。

『主体的・対話的で深い学び』へ向けて

例えば数学でやったグラフの見方が他で応用ができず、数学だけで終わってしまいます。ということは生活で は使えないと言うこと。あれは数学のあの問題に使ったもの、あれは物理のこの問題に使ったもの、と別々に なっています。そこをくっつける作業が必要だろうと思います。京都大学の石井先生が使っている言葉なので すが、科目と科目をつなげていく、それと同時に生活や経済につなげられるのではないでしょうか。各教科よ り大切なのかというとそうではありません。教科それぞれにおける見方考え方。そういうところで身につける ものは大切です。生徒は各教科が大切と言う意識があるから、その意識を利用しよう、と私はそうとらえてい ます。

『アクティブラーニング型授業』

私がやっているのが、演劇的手法。何かになりきるもの です。それに関しての研修セミナーを何度かさせてい ただいています。後はこんなものを使っています。ジグ ソー法、ニュース・ショー、このふたつを組み合わせた 形で学んでいます。KP法は私が生徒に思考のツールと して使っているものです。これにより 45 分授業を 10、15 分で終わらせ、演劇的手法の時間を確保しています。こういう形で子どもたちに思考してもらう時間を作 り、ちゃんと説明する時間も確保する。『アクティブラーニング型授業』をすると、説明しなければいけないん じゃないかと言われます。中等教育ではある程度しっかり伝えなければいけないことがあるので、こうして時 間を作っています。

『理論的』『帰納的』に

当たり前なのですが、論理的に考えること、表現すること。これは出口汪先生の影響かもしれません。重要だと 思っています。普段教えていることは演繹的思考をさせている部分がすごく多いと思うんです。この解き方で 解ける、と問題を出すという演繹的ですよね。そうじゃなくその逆を考えるようにしていかなければいけない よね、そういう時間を作ろうよ、という提案です。

評価について

全てのテスト、発表をルーブリックを作って、それにのっとって評価しています。普段の授業では、毎回生徒に 自己評価をしてもらう、それもルーブリック形式にしています。それはなぜか?評価というのは基本的に形成 的評価であるべきだからというのが私の考えだからです。大学生は経験していないから総括的評価が当たり 前になっているのです。評価を評定だと思っていたりします。評定というのは評価の一部。それが全てだと思 わないで、これからそこは変えてほしいと思っています。

担当希望教科目というよりも「種目』?

私は保護者会をするのが好きで、3 時間でした。どこの学校でも校長先生に心配されたものです。ほとんどが 満足して帰っていただくのですが、2 人ほどに事前に言っておいてほしかったと言われました。伝達会なら いらないと思います。みなさんに不安や心配事を話し、意見交換をしていただき、和やかに帰っていただいて いました。

まとめ

私が一番影響を受けたのは、渡辺淳先生と、私がやっている一連の流れができたのが森朋子先生です。島根大 に先生がいらっしゃった時に教えていただいて、関西大学の教授でしたが今年からは溝上先生のところにい らっしゃっています。

藤牧 朗先生が
・ 学んだ先生方(大きな影響を受けた先生方)

渡辺 淳先生 市川伸一先生 溝上慎一先生 石井英真先生 森 朋子先生 他 ・ 参考になる書籍

「教育プレゼンテーション」(旬報社) 「参加型アクティビティ50」(学事出版) 「ドラマ技法&アクティビティ50」(明治図書) 「アクティブ・ラーニングとは何か」(岩波新書) 「アクティブラーニングに効くKP法実践」(みくに出版)

質疑応答

Q

藤牧先生のセンター試験の成績は?試験問題に対する批評はありますか?
石井 公一先生(立正大学付属立正中学校・高等学校)

A

明らかに言えることは教えている科目は満点、又はそれに近い点数。教えなくなった科目は点数が落ち ていきます。今年はどうでしょうか。楽しみです。試験問題に対して、素直なので批判的な気持ちはあり ません。

Q

演劇的手法を用いた授業はどの教科に反映出来ますか? 
河野 博先生(国士舘中学校・高等学校)

A

数学以外の教科でできると思います。中でも国語と英語は一番面白く出来ると思います。物語ならその まま物語の役をやってもらえばいいし、評論ならその評論家と違う立場になってもらってもいい。自分 がその立場になるので感情移入できておもしろいと思います。 私がやってみて一番やりやすいのは歴史です。私が使っていたのはホットシーティングというやり方で す。一人に前に用意した席、ホットシートに座ってもらい、登場人物になってもらって語り、他の人は他 の登場人物になって質問します。中学 3 年の授業で太平洋戦争が終わったところ、前の授業で私が昭和天 皇をやったので次の授業でそれに対して、今度は生徒がマッカーサーでやりますと言いました。パイプ をつくってきたり、帽子やサングラスなど小道具を持って来てその人物になって話すんです。みんな何 かの立場になってマッカーサーに質問します。例えば「読売新聞の誰々です」と言ってなりきって質問し ます。それはその教科を深めるだけじゃなくて、なりきることによって気楽に話せるのです。自分じゃな いから何を話してもいいという場づくり。日本人が外国人に比べて話せません。堂々と話せるようにな るには、何かになりきって演技をしているつもりで話そう、様々な教科でそれをやっていると子どもた ちはそれが普通になってきてどこでも話せるようになってくるだろう、というのが私の考えなのです。 日本の子どもたちをそういうふうに育てたい、自信を持って外に発言出来るようにしたいと思っています。

情報交換会

『コロナ禍における学校の通常の授業や行事がどのように行われているのか』
3D教育研究会 会長 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 副校長)

コロナ禍における学校行事・授業体制についての情報交換がありました。

片倉 敦先生(順天中学校•高等学校)

学期末テストができない中、3 学期の成績は平常点を入れて評価を決めました。卒業 式は 3 月 19 日に卒業生と教員、保護者 500 人ぐらいで広い会場で行い、謝恩会はやり ませんでした。入学式ができず、学校の各教室で入学の宣言。4 月からはオンライン授 業に移行しました。いろいろ試行錯誤した結果、環境が整っていない生徒もいたので後 で見られるように動画配信。学校行事は 4 月体育祭中止。11 月にオンライン文化祭、 生徒が制作。6 月から授業を始めました。第 1 週は 1 日 1 学年。第 2 週は午前に 1 学年、 午後に 1 学年オリエンテーション。第 3 週から 5 限午前中授業。第 4 週から 40 分 6 限 授業になって、第 5 週から平常の 50 分授業。夏休みは 8 月 10 〜 28 日の 3 週間。

谷口 貴子先生(京華女子中学校•高等学校)

高校の卒業式は 3 月 1 日教員、卒業生、在校生は生徒会長のみ、卒業生の保護者各一人、 来賓なしで行い、謝恩会は行いませんでした。期末試験は 2 学期までを参考にして学年 末の成績を出しました。中学の卒業式は 3 月 17 日に卒業生と、教員、保護者で行いまし た。入学式 5 月 14 日動画配信。連休明けに在校生のタブレットの用意が出来ました。6 月 1 日から分散登校。その後短縮授業で全員登校。7 月から通常授業。8 月 3 週間夏休み。

河野 博先生(国士舘中学校•高等学校)

高校の卒業式は 3 月 1 日教員、卒業生、在校生は生徒会長のみ、卒業生の保護者各一人、 来賓なしで行い、謝恩会は行い学期末テストは 3 月 2 〜 4 日予定しており、強行。その後、登校させず、通知表など郵送 で行い、学期末は通常に行いました。高校卒業式は 3 月 8 日に教室で。中学は大きい教 室で 40 名の卒業生だったので、15 分程度のセレモニーのような卒業式を行いました。 入学式は中止。5 月末 1 年生だけ登校、他 6 月 1 日より登校。6 月から 1 ヶ月間、大学 付属なので高校生が大学の校舎を借りて密にならないように授業。高校 3 年 30 分授業 週 5 回。高校 1、2 年は週 3 回、中学生は中高校舎を使って週 6 回 30 分授業。その間に 生徒の対人関係が希薄になり、心のケアに苦労しました。部活はガイドラインにそって 行い、週 3 回程度。期末試験は 8 月頭に行いました。夏休みは 8 月 8 〜 23 日。行事は中 止、今後は検討中。9 月から 45 分 6 限授業。10 月から 50 分授業になりました。

髙野 淳一先生(ドルトン東京学園中等部・高等部)

昨年が開校初年度のため、卒業式はなし。定期試験を行っていない学校なのであまり影 響はありませんでした。入学式はZoomで時間帯を決めて校長がクラスごとにライブ でメッセージを送りました。1 年の担任グループがウエルカムメッセージの録画配信。 実際に集まって行ったのは 9 月の 1 週目の土曜、学校の講堂で 40 分くらいの短時間で 実施。授業は 4 月 13 日からオンライン。6 月から分散登校。一人週 1 日登校。6 月末か ら午前中、全員登校。午後オンラインでゼミ。夏休みは 7 月 23 日〜 8 月 30 日まで予定 通り。9 月から通常授業、それまで停止していた部活動も通常どおり。行事は後ろ倒し で実施予定。

石井 公一先生(立正大学付属立正中学校•高等学校)

3 月に新入生と在校生に時間差登校で、教科書をどうにか渡せました。4 月の終わり、 5 月の初めからオンデマンドで課題を発信し、回答したものを集めるというのが始まり ました。6 月から分散登校。教室を半分に分けて登校し、2 週間で 1 週間分の授業をし ました。7 月から一斉登校。30 分 6 限授業、12 時半終了、8 月末まで。夏休みは約 2 週間。 補習があったので実質 1 週間。8 月 31 日から 50 分 6 限授業。教室、食堂にアクリル板、 各教室に消毒液を配置し、担任が各机を消毒。

樋口 元先生(京華商業高等学校)

商業はGoogleで動画配信。Google Meetで6月中はオンライン朝礼。分散登校、体温 チェックをGoogle入力。行事は男子校と女子校は体育祭を球技大会に変えて実施、商 業は実施しませんでした。文化祭は 3 校一緒にオンラインで実施予定。クラス企画なし で、ライブ企画は在校生、企画に出ている保護者、人数限定で参加予定。

宿泊行事をやる学校は?と言う質問には、予定を後ろ倒しにして沖縄、九州、関西、広島など国内で行う予定の 学校がほとんどでした。

参加者全員での記念撮影

第25回 3D教育研究会

PDF版はこちらから

ご挨拶

日頃より、株式会社 KA 教育の教育活動にご協力を頂き誠にありがとうございます。 この度『第 25 回 3D 教育研究会』を開催することが出来ました。 『生徒と社会をつなげる教育』と題し、ドルトン東京学園中等部・高等部参事の安居長敏 先生による講演が行われました。開催時のレポートを作成致しましたので是非とも周囲 の先生方へご回覧頂ければ幸いです。
21 世紀を担う生徒達にとって、『3D 教育プログラム』が、少しでもお役に立てればと願う次第でございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

令和元年 8 月吉日
株式会社 KA 教育
代表取締役 菊地 淳

第 1 部「 講 演 会 」

会長挨拶

3D教育研究会 会長 片倉 敦先生(順天中学校・高等学校 副校長)

皆さんこんにちは。
梅雨空の中、お越しいただき本当に有り難うございます。 本日は新しい学校作りと言いますか、これから 21 世紀型の教育をどのように行 うべきかというヒントになるような話をドルトン東京学園の安居長敏先生より講 演を行っていただきます。これから先、どのような生徒を育てていくべきかという ことが曖昧な中で、改革だけが叫ばれているという状況でもありますので、方向性 をある程度はっきりさせておくべきではないのかと考えております。これから生徒と社会を結びつけていく教育、知識だけではなく現場での実践的な教育を目指すのか。また、その為にはど のように意欲や感心を結びつけていくのか。ということが今後重視されていきますので、そういった部分も聞 いてみたいと思っております。
本日は宜しくお願いいたします。

【プロフィール】

ドルトン東京学園中等部・高等部 参事(副校長補佐) 安居 長敏先生

1982 年:滋賀女子高等学校(22 〜 24 歳)
2002 年:エフエムひこね開局(43 歳)
2003 年:パソコンサポート起業(44 歳)
2005 年:FMひがしおうみ開局(46 歳)
2006 年:滋賀学園中学・高等学校(47 歳)
2013 年:同/高等学校校長(54 歳)
2015 年:同/中学・高等学校校長(56 歳)
2017 年:アミークス国際学園/学園長・校長(58 歳)
2019 年:ドルトン東京学園/副校長補佐(60 歳)

講演『生徒と社会をつなげる教育』

皆さんこんにちは。
本日は先生方のマインドを変えるということが基本的な主旨となります。3 校の学校の紹介をし、最後に 現在のドルトンの紹介をさせていただきます。

冒頭ではプロジェクタースクリーンを使用し、画像に沿ったクイズが行われました。
どこに目がいきますか?

大多数の人が右下の欠けた部分に目が行くと思います。しかし子どもたちに聞くと真ん中のくっついた部分 に目が行く子もいたりもします。ただ、どうしても人間は足りない部分や欠けている部分を脳が修正するよう な仕組みがあるそうです。

世界地図を思い浮かべてください。

我々きっと日本を中心とした地図が思い浮かぶと思います。でも世界には色んな国があり、色んな地図があります。

これらは今までに我々が学び得た知識で、自分なりにこうだと決めている方向性に基づくものです。しかし、 それが良い場面ばかりではなく、実は日々暮らしていると自分の身体にどんどん鎧のように付いていっては 無いですか?ということです。 結論としては、そうなっては駄目ですよね?というのが今日の落としどころです。 学校では満点のテストがあります。1 問間違えると減点、間違えたらどんどん満点から引かれていきます。 しかし社会に出て世の中では満点ってあるでしょうか?仕事に置いてココまでで良いという限界はありま せん。そういった世の中なのに学校では何故満点というような限界を置くのでしょうか。それっておかしく ありませんか?

我々はバリバリの 20 世紀型の人間です。否定から入る人は 20 世紀型の人間なのです。今日の話が終わった 後、皆さんには 21 世紀型の人間になっていただきたいので否定せずに「出来る・大丈夫・大成功」というよう な 3Dになって欲しいと思います。

諸外国の学生と比較した場合、日本の学生は全体的にポジティブさに欠けているというデータがあります。 こんな日本で良いのでしょうか?日本も根本を変えていかなければということを色んなところで盛んに言われています。
では、どういう部分を変えていくのか。

今後、AI参入の時代に子どもたちが将来様々な職業に就きたいと言った場合に、我々はどのようなアドバイスをしてあげれるのか。AIがどんどん進むと次にAIの世の中という新たなステージが来るのではなく、毎日のようにどんどん状況が変わるような世の中が来ると考えた方が良いでしょう。次の時代がどうなるのかではなく、次の時代はますます分からなくなっていくと思わないと駄目なのです。

②滋賀学園で繋がった社会と人

特に偏差値の高い学校ではなかったのですが、子どもたちのモチベーションをどのようにして上げていくか と考えていた時に、やはり先生の意識を変えていかなければと思いました。 先生が教えるということをやめ、テストの成績だけで子どもを測ることをやめるということです。

滋賀学園の学び

Real Life:生活に密着した勉強
Street Smart:町中を歩きながら様々な経験 Lifelong:勉強は一生のモノ

この学校では、先生は知識を与えず、学び方の種を蒔くということを実践しました。

弱い部分を無理して何とかするよりも、得意な強い部分をどんどん伸ばせというような考え方です。 また、学校だけではなく、地域や企業にも協力してもらい実践しました。

2015 年にHPというPCメーカーとご縁があり、ICTのハード整備を肩代わりして貰うことが出来ました。新たにHP製のタブレットを無償で導入し、特進クラスに配布しました。アクティブラーニングを行う上で、立教大学の先生や学生に協力してもらい、BLP(ビジネスリーダーシッププログラム)=企業と一緒にビジネスの課題を解決するという学習も行いました。
また、市役所の方に来てもらい、市の人口動態についての話をしていただきました。そこでは学生の色々なアイデアを市長にプレゼンするということも行いました。
学生からは普段の学習よりも楽しい、何故ならば自分が行っていることが人の役にたっているということを 思うとやりがいがあるということでした。

2016年度入学式「ワク熱! 安居教室」

この学校で何が言いたかったかというと、学校の先生が学校ではない場所に手を伸ばせば 10 人に 1 人くらいは必ず掴んでくれる人がいます。学校はオープンなので、何かを一緒にやりたいという人は現れるということです。1 つ行うことで、それがさざ波のように他の企業や地域の方にも伝わるのです。

③アミークスでのチャレンジ

9 年前にできた英語教育の特例校です。日本では珍しい感じの特徴的な学校で半数が外国の先生であり、カナダ 人やオーストラリア人など様々でした。

小学校では国語以外は全て英語による授業。中学校になると高校入試も考慮し、数学と理科だけは日本語で 教える補習学習(サプリの時間)を作り、入試に備えるという感じで行いました。

「学びのシステム」

一条校ですので日本の教科書も使わないとなりません。小学校で啓林館の教科書を使用してたのですが、問題 集はシンガポールのものを取り入れました。 算数の授業を英語で行うメリットは算数と英語が同時に身につくということです。算数の中身も日本の教え方 と外国の教え方が異なるということも含め身につきます。

例えば「3 + 4 = 7」ということをあなたはどのように説明しますか?というプロジェクトに対して、色々な角度 から描くのか?どのようにまとめるのか?どのように表現して伝えるか?ということを実践しました。また、 必ず最後に発表するということを行いました。

英語の場合は、カナダ・オンタリオ州のカリキュラムがベースとなります。

・6 分野の課題設定

「地理・自然」「健康・環境」「旅行・環境」「日本・沖縄」 「テクノロジー・サイエンス」「ジャーナリズム・メディア」

・体験学習も交え、他教科とも連携し、4 〜 6 週間かけて探究 ・その課程で、英語 5 つのスキルを身につける

話す・聞く・読む・書く・メディアリテラシー 英語を学ぶのではなく英語で学ぶことにより、自然に英語が身につきます。

④今こそ必要なチカラ

世の中には様々な人がいますが、やはりレベル 4 の人になって欲しいと思うのです。

LV.4:アイデアを実行に移し、周りに価値をもたらす人
LV.3:アイデアを出せるが「こうしたらいいのに」しか言えない人
LV.2:課題を見つけるが、文句だけしか言えない人
LV.1:言われたことだけをやる人
LV.0:言われたことすらやらない人

「学校だし、やってはダメですよ」ということは封印してください。「学校だからこそ、やっていいですよ」と言葉の表現を変えたほうが良いと思います。例えば世の中ではスマホの時代に「学校ではスマホ禁止」ではな く、学校だからこそ使って良いと考えます。世の中で失敗するよりも学校で失敗した方が良いのです。何か あった場合学校の責任になるという声もありますが、それを学ぶ為に学校はあるのだと思います。

“取り組むべきは正解のない「問い」”

今後、未知の世界になっていく上で、「どうすれば良い?」か誰も分からないわけです。たくさん失敗するから 良いというマインドへ変えていったほうが良いと考えます。

ドルトンが実現したいこと=いつでも どこでも 誰とでも 学べる空間

我々がドルトンで実現しようとしていることは、

・学びの主役はあなた、先生方は全力で応援します。
・個性を大きく伸ばし、思いやりを大切にします。
・深い学びを、どんどん楽しくやりましょう。
・いろいろな人がいて、いろいろな意見があって、お互いを尊重できる世界人になりましょう。

ということです。

これから備えておきたい資質とは、

  • 基礎力(言語運用能力.数理・ICT)
  • 問題解決力(答えを導き出す力)
  • 組織的行動力(当事者意識)
  • 自己実現力(探究心・自己管理)

今、学校を含めた教育というものが変化しているということを、我々はもっと真剣に捉える必要があると思い ます。 ICT等も含めた上でこれまでの考え方の先生方に対しては、本当にこのままで良いのですか?と絶対に問わな ければなりません。これまで通り決められた通りにやらなければ、という考えももちろん否定はしませんが、 半歩外れてみよう、一歩進んでみよう、チャレンジしてみよう、冒険してみよう、といったアクションを起こし 続けないと未来の学校にはなりませんし、教育改革には乗っていけないのではないかと考えます。

大人というのはどうしても自分の歩んできた常識にいつも縛られています。その考えはもうやめる時期です。 それは自分の歩んできた過去のことですし、そのような常識が未来に通用するわけがありません。子どもに対 して良かれと思い発した一言が、子どもの希望の芽を摘むことになりかねませんので、子どもと一緒に学び、 成長するということを考えたほうが良いと思います。

かっこいい大人とは

「かっこいい大人とは?」ということを考える時に「人生で、一番後悔していることはなんですか?」というこ とを想像すれば思い浮かぶでしょう。

  • 掴まなかったチャンス
  • 言わなかったこと
  • 追いかけなかった夢

これを裏返しにマインドを変えていくことで、今すぐにでも「かっこいい大人」になれるでしょう。このような 困難を楽しむことが人生なのではないかと思います。

最後になりますが、自分が沖縄に行ったのも、沖縄からドルトンへ来たのも、このポスターを見て決断をしました。航空会社(ANA)の 60 周年のポスターに刻まれている言葉です。

何もしなければ何も起きない。
行かなければそれはやってこない。
飛びださなければ世界は変わらない。
すべてのひとの心に翼はある。
使うか、使わないか。
世界は待っている。
飛ぶか、飛ばないか。
海をこえよう。
言葉をこえよう。
昨日をこえよう。
空を飛ぼう。

自分が何かをしようと思っても、やらなければ何も起きません。
目の前の物事、出来事は自分が一歩を踏み出すことによって起きます。
行きたかったら、行かないと何も掴めません。
飛び出して行かないと、世界は変わりません。
自分に翼があるのなら、使いましょう。
ということです。

これを最後のメッセージとして、本日の講演を終わりたいと思います。 長時間ありがとうございました。

質疑応答

アサイメントということで定期テストが無いということですが、各教科での評価方法はルーブリック的 にしっかりと押さえられているのでしょうか?

片倉 敦先生(順天中学校・高等学校)

A

各教科で評価の体形はあります。ただ、各教科であまりにもアンバランスだったりもしますので、それを 教科間で調整したり意見交換をするようにしています。これは先生方同士の意志疎通がなければ難しい と思います。 入学して最初に描いていた子どもたちの力と実際の力の差はあるので、今はまだそれを教科間で調整 している段階です。


新しい学校なので若い先生方が多いかと思いますが、今後、学年が中学〜高校と揃っていくにつれて 先生方も増えていくと思います。例えば年配の先生の場合、なかなかついて行くのが難しいシステム なのではと感じますが、どのようにお考えでしょうか。

樋口 元先生(京華女子中学校・高等学校)

A

今の段階では他の学校から転籍をされた中堅の年代の教員が多いです。今後は若い先生を育てられるよ うなある程度の経験を持った先生を入れていくべきだと思います。また、新卒の若い先生はドルトンの 学びを柔軟に吸収してやっていけるような人を採用したいと考えています。


長男が小学 6 年ということもあり、ドルトン進学も考えにあったのですが、塾の方からはまだ結果が出て ない学校なので・・等アドバイスを受けてしまいました。新しい学校で中身の見えない部分もありましたが、実際に生徒さんはどのような感じでしょうか。

二俣潤也先生(京華女子中学校・高等学校)

A

4 月に入学してから 2 カ月半ほど様子を見てると、伸び伸びし過ぎている印象です。そもそもルール が無いですから。何か起こった際にも先生は「駄目」という言い方をするのではなく、「周りの子はどう 思う?」というような疑問系の言い方をします。ルールで縛るのではなく、どうすれば周りの皆が心地よ く学べるかということを身体で感じ、自分の行動を変えるということなのです。ですので時間はかかり ますが。新しいことを始めた時の良さと反面、それを具体的に進めていく時の恐さもあります。実績のな いこのような指導で大丈夫なのか、テストの点数は上がるのかと。しかし現段階では、ドルトンの求めて いることとは、新しい時代の子どもが学ぶ場だということを保護者や子どもとも対話することが大事な のかなと思います。


自分の学校でもタブレット端末による学習を行っているのですが、それによってどうしてもSNS等の問 題も被ってきます。私自身もSNSやタブレット端末がこの先無くなるとは思ってなく、学校の中で使い 方を覚えていくべきだと考えています。先程の話の中で、ルールが無いですとか失敗して学ぶべきだと いう話もありましたが、SNSで失敗した場合、取り返しのつかないようなことになるのでは?とも考え ています。そのような場合においてどのように学習させ、対処していくべきでしょうか。

深瀬 航先生(目黒日本大学中学校・高等学校)

A

本校でもこのような案件も授業で行っています。本校では一切フィルーターをかけずにフルアクセスの Wi-Fiを共有しています。例えば昼休みにYouTubeを見ている生徒もおります。内容によっては、それが プラスにもなるしマイナスにもなりますので、それを見た教員が「それはあなたにとって良いと思いま すか?」のような問いかけはします。確かに怖い場面も想定できますので、それを見かけた教員が問いか けをするようにしています。だからといってこのサイトはNGみたいなことは今のところ行っていません。 ルールで縛ることよりも個々を自覚させることが大切だと思っています。


講演後は同学園入試広報室長の髙野淳一先生より、ドルトン東京学園開校の 準備段階から立ち上げ〜これまで 2 カ月半の解説、紹介がありました。

PHOTO REPORT

参加者全員での記念撮影